税理士試験 簿記論 講師日記

税理士試験 簿記論、財務諸表論、簿記検定の問題、学習方法等をアドバイス。

動態論

動態論の資産概念(その4)

動態論では、損益計算を重視しています。
そこでの貸借対照表は、損益計算を行う手段にすぎません。
動態論で想定されている損益計算は、収支を基礎にしており、収支を損益に変換する段階で生ずる未解決の項目が貸借対照表に収容されることになります。

前回、商品販売を例にとり、動態論における資産がどのように考えられているのかをみてきました。

(商品販売の場合)
現金(1)100→商品→(販売)→売掛金150→受取手形→現金(2)

このような資金の循環過程のうち、その投下過程にある資産(商品=支出未費用)を費用性資産といい、回収過程にある資産(売掛金・受取手形=収益未収入)が、貨幣性資産と呼ばれます。
当初に投下された資本(100)を超えて回収された資本(150−100=50)が「利益」です。

(資金の貸付の場合)

現金→貸付金→現金

この場合の貸付金は、後に費用になる訳ではありませんので、支出未費用ではありません。
また、収益未収入という訳でもありません。
新たなカテゴリーを設ける必要があります。
それが、「支出未収入」です。

今までに登場した動態論の資産類型は、次の4つです。

(1)支払手段(現金、預金=貨幣性資産)
(2)支出未費用(棚卸資産、固定資産=費用性資産)
(3)収益未収入(売掛金、受取手形=貨幣性資産)
(4)支出未収入(貸付金=貨幣性資産)

このように動態論では、企業活動を資金の循環過程と捉え、その資金の循環過程における資産をその投下過程にある資産(費用性資産)と回収過程にある資産(貨幣性資産)とに区分し、費用性資産は、支出額を基礎に、貨幣性資産は、収入額を基礎に評価することとした訳です。

動態論の優れた点は、企業活動を資金(資本)の循環過程になぞらえ、みごとに描写しつつ、その金額の決定(評価)の基礎的な考え方を呈示している点にあるといってよいかもしれません。
動態論の素晴らしさは、今日においても色あせることはないといってよいでしょう。
しかし、現実として時代は、また、静態論(新静態論)へと動いています。

なぜ、新静態論へと移行しているのでしょうか?
動態論の何がおかしかったのでしょうか?

次の課題です(って、まだつづくのね)。

つづく

動態論の資産概念(その3)

動態論の資産概念のつづきです。
前回の例に手形回収を加えました。

設立:現金(1)100 資 本 金100
仕入:商  品100 現  金100
掛売:売上原価100 商  品100
掛売:売 掛 金150 売  上150
手形:受取手形150 売 掛 金150
回収:現金(2)150 受取手形150

現  金:支払手段
商  品:支出未費用
受取手形:収益未収入
売 掛 金:収益未収入

動態論では、資産を「支払手段」、「支出未費用」、「収益未収入」等からなるものとして捉えますが、ぶっちゃけ何だかつかみ所がない気がします。
おそらくは、「だからどうしたのか」が明確ではないからでしょう。

やや、異なる視点から考えてみましょう。
それは、「資金(資産)の流れ」と「その金額(100円と150円)」についてです。

(1)資金の投下の過程
上記の仕訳の借方(100円)に注目してみると、当初の現金(1)が、商品、売上原価へと姿を変えていることがわかります。

現金(1) → 商品 → 売上原価

(2)資金の回収の過程
また、同様に借方(150円)に注目してみると、売掛金、受取手形、現金(2)と姿を変えていることがわかります。

売掛金 → 受取手形 → 現金(2)

商品の販売を契機に異なる金額(100円と150円)での資産に変化があることがわかると思います。

動態論では、このように、(1)資金の投下の過程にある資産(商品)をその資金の投下額(支出額)で捉え、(2)資金の回収の過程にある資産(売掛金、受取手形)をその資金の回収額(収入額で捉えています。

(1)資金の投下の過程 → 商品       →100円(資金の投下額)
(2)資金の回収の過程 → 売掛金、受取手形 →150円(資金の回収額)

(1)の資産が、費用性資産と呼ばれ、(2)の資産が、貨幣性資産と呼ばれます。

商品販売を例にあげて、動態論の資産概念をみてきました。
いま一つ、典型的な取引を取り上げ、なんとか総括したいと思います。

つづく

動態論の資産概念(その2)

静態論のもとでの貸借対照表項目は、売却時価で評価されますが、現実の企業は、事業活動をやめて、資産を売却する訳ではありません。
現実の企業は、貸借対照表項目をどのように評価するかにかかわりなく、事業活動を継続しています。
企業は、出資者から資金を募り、その資金で様々な資産を購入します。
その購入した資産を利用したり、また、販売したりして、投下した資金の回収をはかります。

今、単純な一連の取引を考えてみましょう。

設立100円
仕入100円
掛売150円
回収150円

一連の仕訳を売上原価対立法によって示してみます。

設立:現  金100 資 本 金100
仕入:商  品100 現  金100
掛売:売上原価100 商  品100
掛売:売 掛 金150 売  上150
回収:現  金150 売 掛 金150

今、上記の一連の仕訳における資産科目を動態論では、次のように考えています。
現 金:支払手段
商 品:支出未費用
売掛金:収益未収入

現金は、どのような理論をとろうとも資産であることに変りはありません。
収支の手段としての意味を持っています。

商品は、前回にご紹介した消耗品と同様に「支出が行われているが、費用になっていない項目」、つまり、「支出未費用」です。

新しく登場したのが、売掛金ですが、収益を獲得し、将来の現金収入をもたらします。
このような項目を「収益未収入」と呼びます。

「支払手段」、「支出未費用」、「収益未収入」

動態論の姿が見えて………こないか。

つづく

動態論の資産概念(その1)

動態論の話のつづきです。

(1)売却価値のある財産(静態論……財産計算中心)
(2)貨幣性資産と費用性資産(動態論……損益計算中心)
(3)経済的資源等(新静態論……?)

動態論では、貸借対照表を「損益計算と収支計算との差」を収容する項目の一覧表と考えています。
今、このことを消耗品の購入と消費を例にとって考えてみましょう。
消耗品を購入時に資産(消耗品)処理し、決算時に消費分を費用(消耗品費)処理する場合です。

購入時:(借)消 耗 品100 (貸)現金預金100

決算時:(借)消耗品費 70 (貸)消 耗 品 70

損益計算書には、消耗品費70が計上され、貸借対照表には、消耗品30が計上されます。
支出額は、100円ですが、この支出額100円のうち費用70円にならなかった30円が資産と考える訳です。

動態論の始祖であり、近代会計学の父(いや母だったか)と呼ばれるドイツの会計学者、シュマーレンバッハはこのような項目を「支出未費用」と名づけました。
支出が行われているもののいまだ費用になっていない項目という意味で、「支出未費用」です。
このように貸借貸借表項目のすべてを収支との関連で考え、損益計算を行った残りが貸借対照表項目と考えた訳です。

棚卸資産、固定資産等は、このような意味での「支出未費用」項目です。
もちろん貸借対照表項目は、「支出未費用」だけではありません。


次回以降でもう少し貸借対照表項目の範囲を広げつつ動態論の核心に………迫れるのか?

つづく

動態論の考え方

資産概念は、おおむね次のように推移してきました。

(1)売却価値のある財産(静態論……財産計算中心)
(2)貨幣性資産と費用性資産(動態論……損益計算中心)
(3)経済的資源等(新静態論……?)

静態論のもとでの資産は、売却価値を有する財産であり、その貸借対照表価額は、売却時価になります。
考え方そのものは極めて明確なのですが、売却時価の算定は必ずしも容易ではありません。
そこでより確実な評価の標準として求められたのが原価だったといってよいかもしれません。

動態論(動的貸借対照表論)は、貸借対照表ないしは会計全般に関する考え方ですから、原価(支出)に限定するとやや正確性を欠きます。
むしろ、収支(収入と支出)といった方がよいでしょう。

静態論は、財産計算を重視しますが、動態論では、損益計算をその中心においています。
ある期間の損益は次のように計算されます。

収益−費用=利益

今、仮に、企業の全生涯を仮に想定した場合、その全生涯における損益計算は、収入から支出を差し引くことにより計算できる筈です。
この場合、もちろん資本取引は除外します。

収入=収益、支出=費用

収入−支出=「利益」

しかし、ある会計期間だけを抜き出した場合には、収入=収益、支出=費用という関係がなりたっている訳ではありません。
ある会計期間において、収入と収益、支出と費用の違いから生ずる項目を収容するのが貸借対照表だというのが動態論における基本的な貸借対照表に対する考え方といってよいでしょう。

では、より具体的に動態論のもとでの資産はどのように考えられているのでしょうか。

つづく(ふーっ)

静態論から動態論へ

資産の定義は、ややラフに次のように類型化できると思います。

(1)売却価値のある財産(静態論……財産計算中心)
(2)貨幣性資産と費用性資産(動態論……損益計算中心)
(3)経済的資源等(新静態論……?)

静態論のもとでの資産概念、つまり、「売却価値を有する財産」という考え方は、極めて明確です。
静態論のもとでの貸借対照表は、財産の一覧表と考えられ、その主眼は、財産計算におかれていました。

これに対し、財産計算ではなく、損益計算を会計の主軸におき、貸借対照表は、損益計算を行った結果の残りとみる考え方が登場しました。
このような考え方が動態論とよばれます。

静態論は、考え方としては極めて明確です。
とてもわかりやすいのではないかとも思います。
しかし、大きな問題がありました。
それは、金額をどうするか、つまり、評価の問題です。

静態論では、資産を売却価値を有する財産と考える訳ですから、その資産を貸借対照表にのせる価額(評価額)も資産を売却したとしたらいくらかという意味での時価であるべきでしょう。
しかし、売却時価がすべての資産について必ずしも明確な訳ではありません。
また、これを悪用して、みせかけの業績を装うことも少なからず行われたようです。

このような不確実な売却時価ではなく、伝統的な会計の中核を占める確実な評価指標が原価だったのです。
売却時価に代わる確実な評価の指標として原価を正当化する理論、それが動態論であるといってよいかもしれません。

次回以降で、動態論に(必要以上)に踏み込んでいけたらいいなと思います。



追記

ランキングは、皆様のおかげで、短時間ではありましたが、1位を獲得いたしました。

どうもありがとうございました(しゅ、終了ですか)。

この御恩は、当分、忘れません(と、当分ですか)。

「動態論」と「静態論」

「新しい簿記の話」の続きです。
メインは、次の三点です。

●貸借対照表の「資本の部」が「純資産の部」になる。
●利益処分案(利益処分計算書)がなくなり、「株主資本等変動計算書」が導入される。
●損益計算書が、当期純利益までになる。
(試験的な影響は、平成19年度以降になると思います)

貸借対照表の資本の部が純資産の部に変更されることが予定されています。
この貸借対照表ですが、これまでにまったく同じ見方・考え方でとらえられていたのかというと必ずしもそうではありません。
時代によって、貸借対照表に対する見方は大きく異なります。

動態論とか、静態論という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?
これは、貸借対照表に対する見方(あるいは、会計全般の考え方)を意味します。

かつて、貸借対照表は、売却価値のある財産の一覧表と考えられていました。
このような貸借対照表に対する見方は、「静態論」とか、「静的貸借対照表論」と呼ばれます。
企業の有する財産を一定時点で精算してしまったらいくらになるのかがそこでの課題といえます。
そこでの中心は、あくまでも財産の計算です。

これに対して、貸借対照表を単なる財産の一覧表ではなく、損益計算を行った上での未解決項目の一覧表とみる考え方があります。
このような貸借対照に対する見方は、「動態論」とか、「動的貸借対照表論」と呼ばれます。
企業は、そもそもその有する財産の全てを精算するために存在する訳ではなく、継続的な活動を行い、その活動の中で利益を獲得することを狙いとしています。
その利益をきちんと計算することが動態論における中心的課題といってよいでしょう。

ややラフにいうと、会計の歴史は、「静態論」から「動態論」へと移行し、そして近時、その振り子はかつての静態論とは異なるものの、また、財産の計算へと戻りつつあります。
時として、そのような考え方は、「新静態論」と呼ばれたりします。

っていうか、全然「新しい簿記の話」になってませんが、本題は、ここからです。

つづく(やっぱし)。


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