「収益認識基準入門」と題して新しい収益認識基準を探ってきました。
最後にこれまでの内容を振り返っておきましょう。
最後にこれまでの内容を振り返っておきましょう。
(実現主義)
これまでの我国における収益認識には、原則として実現主義が採用されてきました。
財やサービスを相手に引き渡し、これに対する対価としての貨幣性資産を受領した段階で収益を認識するのが実現主義です。
実現主義は、取引という確定した事象で収入を収益にする考え方といえるでしょう。
(投資のリスクからの解放)
企業会計基準委員会が純利益の認識に関する考え方としてとったのが「投資のリスクからの解放」です。
純利益は、収益から費用を控除して算出するので、「投資のリスクからの解放」の考え方は、収益の認識に関する考え方としての意味も持ちます。
「投資のリスクからの解放」の考え方は、実現概念を進歩・発展させ、事業投資だけでなく、売買目的有価証券の評価益等の金融投資の収益認識も説明できるようにしたものといえます。
財やサービスにより生ずる収益の認識の考え方は、実現主義と大きく変わりません。
投資のリスクとは、投資の成果の不確定性を意味し、投資にあたって期待された成果が事実として確定するときに投資がリスクから解放され、収益が認識されます(以後では事業投資のみを対象とします。)。
(収益認識基準)
「実現主義」や「投資のリスクからの解放」の考え方が取引や取引から生ずるキャッシュ・フローを基礎とするのに対して、「収益認識基準」はやや様子が異なります。
「収益認識基準」では、財やサービスの移転を対価の額で描写するように収益を認識します。
財やサービス(資産)が移転するのは、契約による履行義務を充足した時点です。
契約による履行義務は、顧客に対して資産に関する権利が移転した時点で充足します。
顧客に対して資産が移転するのは、顧客が資産に関する支配を獲得した時点です。
このように収益認識基準における収益認識は、「資産の移転」に着目したものであり、資産負債アプローチによるものといわれます。
これに対して伝統的な「実現概念」やこれを拡張させた「投資のリスクからの解放」概念は取引を基礎としたいわば収益費用アプローチによる収益認識といえます。
(収益認識基準における会計処理)
もっとも具体的な会計処理を検討した限りでは、収益認識基準による収益認識は、従来の取引をベースとした収益費用アプローチによる収益認識の考え方と大きく矛盾しませんでした。
収益認識基準における収益認識の具体的な例として、検収基準の原則化、割賦販売での割賦基準の廃止、代理人取引(消費税の税抜方式等)、ポイント付販売・保証付販売の収益認識を検討しました。
検収基準の原則化は、より確実な収益の認識基準を選択したため、割賦基準の廃止は、金利要素を取引から分離するため、消費税の税抜方式は、代理人取引を厳格に収益計上しないこととしたため、ポイント付販売や保証付販売は、契約に複数の履行義務が存在するなら、取引価格を履行義務に配分して収益認識をするため、収益認識が従来と異なると考えることができます。
つまり、収益認識基準における収益認識は、従来の収益認識に比して極めて大きな食い違いがあるともいえないのです。
収益認識基準は、適用業種の限定がない極めて大型の会計基準です。
その実務に与える影響は大きく、試験的にも重要性は極めて高いと考えられます。
しかし、これまでの会計基準の改正等を反映した実際の試験の出題を考えてもわかるように、必ずしも会計基準の改廃が行われた場合において、その細部を問う出題がなされているわけではないのです。
例えば「金融商品会計基準」の出題は、「時価評価」ないしこれと対比されるべき会計処理としての「配分」との対比で多数の出題がなされていますが、デリバティブ取引等の細かな会計処理が問われているわけではありません。
いたずらに会計処理の細部を詰め込むことが財務諸表論の理論対策になるとも思えません。
「収益認識基準」における収益認識がこれまでの「実現」や「投資のリスクからの解放」と比較してどのように異なるのか、また異ならないのかは大きな課題となるでしょう。
さらに資産負債アプローチによる収益認識が「資産の移転」によりこれを捉えるものとした場合、目的物の引渡し前に工事進行基準のような例で取引の相手方がその資産の支配を獲得したといえるのかどうかは大きな課題です。
資産負債アプローチによる収益認識といわれる「収益認識基準」がこの点にどのような解決をはかっているのかは興味深いですが、この点は稿を改めて考えることとします。
収益認識基準入門(完)
スタートの記事はこちらからどうぞ。
収益認識基準入門(その1)
これまでの我国における収益認識には、原則として実現主義が採用されてきました。
財やサービスを相手に引き渡し、これに対する対価としての貨幣性資産を受領した段階で収益を認識するのが実現主義です。
実現主義は、取引という確定した事象で収入を収益にする考え方といえるでしょう。
(投資のリスクからの解放)
企業会計基準委員会が純利益の認識に関する考え方としてとったのが「投資のリスクからの解放」です。
純利益は、収益から費用を控除して算出するので、「投資のリスクからの解放」の考え方は、収益の認識に関する考え方としての意味も持ちます。
「投資のリスクからの解放」の考え方は、実現概念を進歩・発展させ、事業投資だけでなく、売買目的有価証券の評価益等の金融投資の収益認識も説明できるようにしたものといえます。
財やサービスにより生ずる収益の認識の考え方は、実現主義と大きく変わりません。
投資のリスクとは、投資の成果の不確定性を意味し、投資にあたって期待された成果が事実として確定するときに投資がリスクから解放され、収益が認識されます(以後では事業投資のみを対象とします。)。
(収益認識基準)
「実現主義」や「投資のリスクからの解放」の考え方が取引や取引から生ずるキャッシュ・フローを基礎とするのに対して、「収益認識基準」はやや様子が異なります。
「収益認識基準」では、財やサービスの移転を対価の額で描写するように収益を認識します。
財やサービス(資産)が移転するのは、契約による履行義務を充足した時点です。
契約による履行義務は、顧客に対して資産に関する権利が移転した時点で充足します。
顧客に対して資産が移転するのは、顧客が資産に関する支配を獲得した時点です。
このように収益認識基準における収益認識は、「資産の移転」に着目したものであり、資産負債アプローチによるものといわれます。
これに対して伝統的な「実現概念」やこれを拡張させた「投資のリスクからの解放」概念は取引を基礎としたいわば収益費用アプローチによる収益認識といえます。
(収益認識基準における会計処理)
もっとも具体的な会計処理を検討した限りでは、収益認識基準による収益認識は、従来の取引をベースとした収益費用アプローチによる収益認識の考え方と大きく矛盾しませんでした。
収益認識基準における収益認識の具体的な例として、検収基準の原則化、割賦販売での割賦基準の廃止、代理人取引(消費税の税抜方式等)、ポイント付販売・保証付販売の収益認識を検討しました。
検収基準の原則化は、より確実な収益の認識基準を選択したため、割賦基準の廃止は、金利要素を取引から分離するため、消費税の税抜方式は、代理人取引を厳格に収益計上しないこととしたため、ポイント付販売や保証付販売は、契約に複数の履行義務が存在するなら、取引価格を履行義務に配分して収益認識をするため、収益認識が従来と異なると考えることができます。
つまり、収益認識基準における収益認識は、従来の収益認識に比して極めて大きな食い違いがあるともいえないのです。
収益認識基準は、適用業種の限定がない極めて大型の会計基準です。
その実務に与える影響は大きく、試験的にも重要性は極めて高いと考えられます。
しかし、これまでの会計基準の改正等を反映した実際の試験の出題を考えてもわかるように、必ずしも会計基準の改廃が行われた場合において、その細部を問う出題がなされているわけではないのです。
例えば「金融商品会計基準」の出題は、「時価評価」ないしこれと対比されるべき会計処理としての「配分」との対比で多数の出題がなされていますが、デリバティブ取引等の細かな会計処理が問われているわけではありません。
いたずらに会計処理の細部を詰め込むことが財務諸表論の理論対策になるとも思えません。
「収益認識基準」における収益認識がこれまでの「実現」や「投資のリスクからの解放」と比較してどのように異なるのか、また異ならないのかは大きな課題となるでしょう。
さらに資産負債アプローチによる収益認識が「資産の移転」によりこれを捉えるものとした場合、目的物の引渡し前に工事進行基準のような例で取引の相手方がその資産の支配を獲得したといえるのかどうかは大きな課題です。
資産負債アプローチによる収益認識といわれる「収益認識基準」がこの点にどのような解決をはかっているのかは興味深いですが、この点は稿を改めて考えることとします。
収益認識基準入門(完)
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収益認識基準入門(その1)
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