資本は維持しなければならない。

このことを商法・会社法に即して考えればその目的は債権者の保護にあります。

株主に資金が過剰に流出することに対して一定の歯止めをかけるのがそのネライでしょう
もっとも「資本金」や「払込資本」に企業の存続を左右する機能はありません。

つぶれるときはつぶれます。

支払いができないときはできません。

債権者にとって重要なのは、自分で資金を出すときに株主への配分のルールが固まっていることでしょう。

市場で債券を購入するならそのときに株主への配分のルールが定まっていることが重要なのです。

それで不足と感じれば、条件を足したり、個別に手を打つなり(担保をとる等)、また貸出や購入をやめれば済むだけの話でしょう。


債権者の保護というと弱者である債権者を資本金等の存在により保護するイメージがつきまといますが、必ずしもそうではありません。

株主と債権者との利害調整の一手段として株主への配分限度を決めているというのが正しい理解です。

であるなら分配のルールを必ずしも資本金や払込資本といった貸借対照表のストック項目に依存しなければならない理由はないのです。


現在の会社法がいまだに貸借対照表のストック項目を分配の基準としているのは立法担当者の言によれば、それに意義を見出しているからではありません。

それに代わるべき制度を見出せないため、つまりは、いいとも悪いとも言えないのでとりあえず存置している。

そんな理解が正しいようです。


資本は維持しなければならない。

その考え方は会社法では明らかに後退・変質しました。

株主への分配のルールは商法・会社法に依存したものです。

その他資本剰余金が配当されるルールのもとでは、資本は維持しなければならないことそのものが再考される必要があるというべきでしょう。



資本と利益の区別(9)