第三原則は、前段と後段からなります。

ここまでで確認したように前段は期間損益計算を適正に行うために取引の区別を行うことを要求したものです。

問題は、むしろ後段にあります。
後段の文章の意味をとれば、取引の結果として生じた剰余金を拠出資本と留保利益に分け、その後の混同を禁じたものといえそうです。

しかし、後段のこのような理解には大きな疑問があります。


このような理解に波紋を投げたのが商法・会社法の変革でした。

もっとも大きな出来事は、拠出資本のうち資本準備金以外の剰余金(その他資本剰余金)が分配可能とされた点です。

第三原則の後段では資本剰余金と利益剰余金を分けろといっているのですが、その根拠に立ち入る必要性を感じさせる改正でした。

特に当初の段階(平成13年)では、その他資本剰余金の配当も利益配当と全く同様に位置付けられており、「その他資本剰余金の配当」の際に積み立てるのも利益準備金でした。

その後、「その他資本剰余金の配当」は「その他利益剰余金の配当」とは明確に区別され、表示上は両者の混交が認められていません。


拠出資本は維持しなければならない。

留保利益は処分可能である。

株主資本を拠出資本と留保利益に区別しなければならない理由がこのような維持や処分という論理に依存するなら、そもそも「その他資本剰余金の処分」が認められること自体に問題があるハズです。


それまでもごく一般的には、資本は維持しなければならないが、利益は処分可能であるという理解だったと思います。

利益剰余金の一部を予備的に拘束する利益準備金の意味は分かります。

しかし、拘束しなければならないハズの資本剰余金が分配可能なら、そもそもストックとしての資本と利益を区別しなければならないのはなぜなのでしょうか。

そのことに踏み込まなければ、資本と利益の区別の問題に迫ることはできません。

分配規制の上での制約が外れて、なおストックとしての資本と利益の区別に重要性を見出すなら、そこには別の視点が必要なハズです。

資本は維持しなければならない。

利益は処分できる。

そのことの意味を考える必要がありそうです。



資本と利益の区別(7)