敬愛する中村忠先生の「変わった簿記書」(五訂版序より)。

しかし、中村先生の本は読みやすい。

いや、中村先生の文章といった方がよいだろうか。

エッセイ集が読みやすいのはあたりまえとしても普通の簿記会計の本が読みやすいのはとてもありがたい。

この簿記ブログでまずはじめに紹介することとなる簿記の本は、学習書でもなく、研究書でもない「異色の簿記の本」である。

なぜ、中村先生の本が読みやすいのか。

思い当たるのは2点。


一つは、純粋に文章が読みやすい点。

難解な表現を避け、文章が短い。

どうすれば読みやすい、わかりやすい文章が書けるか。

それを突き詰めるとこんな文章になるのかもしれない。

さすがの一言。

他の簿記の本、ガンバレ!!


本書は、学習書でもなく、研究書でもない。

むしろ、簿記を指導する立場に向けて書かれたものといってよいかもしれない。

しかし、わかりやすさが簿記の学習者にも薦めたくなる理由でもある。


中村先生の本を読みやすいと感じるもう一つの理由は、実務に携わってから受けがちな簿記処理に対する違和感を感じない点である。

これは必ずしも現実の実務というより、実務的に考えてといった方がよいかもしれないが。

いくつか要約して例をあげておこう。

・仕訳帳に諸口と書く意味はない(39頁)

・手形割引・裏書時の対照勘定法は不要、評価勘定法は触れる必要なし(40頁)

・損益計算書の赤書はやめた方がよい(41頁、134頁)


こういった一般の簿記書には、とくに理由もなく記述されている取扱いをズバリ不要と断じていただくと本当に心強い。

実務的に違和感がないことの背後には、実務家の話にも謙虚に耳を傾ける姿を想像しているのだが、これは想像の域をでない。

このような一般の簿記書には見られない記述が本書には満ちている。

簿記の学習書に飽き足らない学習者は息抜きに読んでみるとおもしろいと思う。

おもしろいと思える簿記の本。

なかなかお目にかかれるものではない。



かつて、一度だけ中村先生とことばをかわしたことがある。

有料の講座を受け、たった一つの質問をした。

しばし、黙考の後、回答をいただいた。

いただいた回答は今も私の中にある。


そういえば本書には、分配可能額についての記述はあるが、配当可能額への言及はない。

もし、私が配当可能額はありますか?という質問を直接したら制度会計をご専門とする中村先生はいったい何とお答えになるだろうか。