財務諸表論 超短答問題３８（保守主義の原則の限度）

（問題）保守主義の原則の限度を述べよ。

（解答）

解答は一番下です。


（コメント）

保守主義は、控えめな利益の計上を要請する会計思です。

しかし、あくまでも認められた方法の枠内での変更に限られ、むやみに利益を小さくすればよいわけではありません。

利益を故意に大きく計上するのが「粉飾」であり、逆に利益を故意に小さくするのが「逆粉飾」です。

控えめな利益を計上することが保守主義としてもこのような逆粉飾が認められるわけではありません。

認められた会計処理の方法を超えた会計処理を「過度の保守主義」といい、真実性の原則に反し、認められません。

（会計基準等）
・企業会計原則　一般原則六


（財務会計講義＜第25版＞）
・保守主義の原則：66頁


（つながる会計理論＜第２版＞）
・2-8　保守主義の原則・単一性の原則：15頁
・Ch2問題７−７（保守主義の原則の根拠は？）：23頁


（解答）

認められた方法の範囲内であること

Comments

[1. しんのすけ]

認められた方法の枠内ということは、例えば、税効果会計が義務図けられている現状で、保守的に考えて、タックスプランニングをせずに、回収可能性が低いから(将来、課税所得が発生するかどうか不明）といった理由で、繰延税金資産を計上しない、といったことは、保守主義の原則に反することになると考えるわけですね。(比喩が長くてすいません。)

[2. 講師]

なるほどこれまでは見積もりというか、将来のできごとを織り込むのは、引当金くらいで、織り込む方が利益は小さくなる。
でも、新しい基準のもとでは織り込まない方が利益が小さくなるものも増えてますね。

タックスプランニングというと課税所得を発生させるような含み益のある資産の譲渡計画ということになるかと思います。
将来の事実の予想という面があるので、保守主義の介在する余地もあるようにも思えます。
が、売るだろうというのを握りつぶして売らないとして繰延税金資産を計上しないのは、保守主義の問題とは直接関係しないと考える方がよいようには思います（なんかご質問の意図と違ってしまったかもしれません）。

[3. しんのすけ]

補足させて下さい。タックスプランニングの定義について、「含み益のある資産の譲渡計画」のみならず、「将来の収益計画に基づいた課税所得の計画」と考えた場合、税務上の減算を超えた当期純利益が、現状で見込めるかどうかを「保守的に考えて」売上等が減少するだろうという見込みのもとに繰延税金資産を計上しない、という考え方は出来ないでしょうか。
当期純利益が多額に見込めれば必然的に課税所得も見込める要素が高まりますが、「ここ数年利益を計上しているからといって、繰延税金資産を積極的に計上するほど、先行きに楽観はできない」という判断について、保守主義の原則が問題となるかどうか、「認められた枠内」をはみ出すかどうか、という点に興味を持った次第です。

[4. 講師]

あっ。やっぱり外してました（笑）。
ご質問の意図はわかりました（遅くてすいません）。
タックスプランニングについては、私は実務指針にこだわりすぎかもしれません。

これは結構、骨かもしれません。
ちょっと時間ができたらしっかり調べてみようと思います。とりあえずの印象です。

もともと保守主義に関してはいろんな考え方がありうるとは思いますが、純粋な理論を考える場合には除外した方がいいような面があります。
保守主義はきわめて実践的な要請と考えた方がよいかもしれません。
そもそもそれぞれ会計処理のいい面わるい面があって複数の処理方法が認められているのに、利益の一番少ない方法をよしとするなら最初から方法を一つにしてしまえばよくなりますので、理論的には矛盾もはなはだしいです。

[5. 講師]

もっともしんのすけさんのご疑問は将来の見積もりにかかる部分ですので、その意味では保守主義との関連を語れる余地はあるかもしれません。

これは退職給付引当金の算出要素である退職給付債務もそうだと思いますが、新しい領域ではありがちですが、保守主義との関連を説明したものはみかけません。
というのもあたらしい領域（貸借対照表アプローチといってよいです）がある時点での静止した価値を求める傾向があるからだと思います。
そこでは客観的な時価やできるだけ合理的な方法で算出した価額を求めることが重視されます。
そもそも保守主義が顔を出す余地は少ないのかもしれません。
実際のところ新しい領域では複数の処理方法そのものが影を潜めています。

[6. 講師]

ということで、保守主義を単に利益の大小で語るなら繰延税金資産についても保守主義との関連を語ることはできるかもしれません。
実際には、保守主義とはやや距離を置いた議論がなされるべき、あるいはなされているという感じではないかと思っています。

うーん、これもすかっていたらすいません。

[7. しんのすけ]

なるほど。新基準では、フローよりストックが重視されるため、「将来の危険に備えて慎重な判断をする」意味合いが従来とは変質している、と見ることが出来るわけですね。
つまり、見積計算でも、収益を慎重に見積もるより、現時点でどの程度価値があるかに重きが置かれている。その結果、会計的な判断が積極的にならざるを得なくなったとしても、それは保守主義の問題とは考えなくなっていると。
大変勉強になりました。
今後も勉強させてください。
有難うございました。

[8. 講師]

おおっ。大変上手に整理されてますね。
素晴らしいです。
私も参考になります。
こちらこそありがとうございました。

[9. くまわんた]

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