会社法では、剰余金の配当や自己株式の取得に一定の金額的な限度を設けました。
剰余金の配当等に対する統一的な財源規制のハードル、それが「分配可能額」です。

分配可能額は、剰余金の額をスタートに計算します。
剰余金の額から一定の控除項目を控除して、分配可能額が計算されます。
分配可能額のスタートともいえる剰余金の額は、その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額です。
その他資本剰余金とその他利益剰余金の額は多分に会計処理の結果を反映したものといえるでしょう。
しかし、会社法では、「剰余金」の額の変動についての規定は設けています。
このことからもわかるように分配可能額は、会社法が自律的に定めているものです。

ここ数年、企業会計の制度は著しい変革を遂げました。
新たな会計基準がたて続けに公表され、その余波は今も続いています。
その変革のスピードには簿記論の講師もビックリです。
会社法は、企業会計制度の改革に対して、個別的な規定をおいて対応することをしませんでした。
むしろ、企業会計の変革に対応しないという形での対応をとったのです。
会社法は、表示以外の会計処理からは緩やかに手を引いたといったところかもしれません。

企業会計の変革から距離を置いた会社法。
その会社法に譲れないものがあるとすれば、それは会計処理ではありません。
それは分配規制です。
分配規制を自律的に会社法が定めている以上、法解釈の段階で、企業会計が口を出すべき余地はないでしょう。

会社法では、剰余金の配当を行った場合には、準備金の計上が義務付けられています。
同様の規定は商法にも存在しました。
商法では、その他に配当可能利益の算出段階で、法定準備金の要積立額を控除することとしていました。
会社法では、分配可能額の計算上のこれに対応する規定はありません。
会社法にこれに対応する規定がない以上、準備金の要計上額を控除する必要はない。
準備金の要計上額を加味して剰余金の配当可能額を求める必要はない。

会社法が苦手であまり好きではない税理士試験の簿記論の講師が出した結論です。

分配可能額と剰余金の配当(完)