会社法上、準備金の要計上額は、分配可能額の計算に影響しません。
剰余金の配当はあくまでも会社法上の行為です。
会社法(ないしは会社計算規則等)に規定がない以上、準備金の要計上額を配当できない根拠はないでしょう。

しかし、準備金の要計上額を配当できないとする記述は多いです。
以前、このブログでその根拠を教えてくださいとお願いしたのですが、回答はいただけませんでした。
何らかの回答をもとにすると考えやすいですが、ここでは、想定される根拠を考えつつ、検討を加えたいと思います。

まず想定されるのは、分配可能額の計算上、準備金の要計上額が控除されるとするものです。
すでにみてきたとおり会社法にそのような規定は存在しませんので、これは誤解でしょう。
やや紛らわしいのが会社計算規則の178条ですが、これはあくまでも最終事業年度後に行った剰余金の配当に関してのものです。

次に分配可能額の計算上は控除されないもののいわば剰余金の配当可能額が別途存在するとの考えです。
このような考えにも二つを区別する必要があるかもしれません。

一つは、準備金の計上が義務付けられている以上、当然にその分の配当はできないのではないかとする考え方です。
従来のあり方を踏襲すれば、とても自然かもしれません。
しかし、会社法上、準備金の計上と分配可能額が別途規定されている以上、それを勝手にリンクさせることはできません。
かつて配当可能利益の計算上、準備金の要積立額を控除したのは、その規定(商法290条)があったからです。
もちろん同様の規定を置くことは可能だったでしょう。
会社法でそれに該当する規定がない以上、不要と解釈せざるを得ません。

今一つは、会計処理等の会計の事情を加味したものです。
分配可能額は、剰余金の額を基本(スタート)にしています。
剰余金の額(例えばその他利益剰余金→繰越利益剰余金)を全額配当したとすれば、その会計処理はかなり不自然になります。
その他資本剰余金を全額配当した場合も同様で、会計処理に不自然さは残ります。

剰余金の配当は会社法上の制度です。
剰余金の配当を考える場合には、会社法の規定を無視する訳にはいきません。
会社法は、このような処理をどのように考えているのでしょうか。
会計処理を具体的に考えつつ歩みを進めたいと思います。

分配可能額と剰余金の配当(4)