「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。」
一般原則の第六原則は「保守主義の原則」と呼ばれます。
保守主義の原則は、慎重性の原則や安全性の原則とも呼ばれることがあります。

単純にはいえませんが、「費用の早期計上、収益の慎重な計上」が保守主義の基本的な考え方といってよいでしょう。
一般に「保守」の語は、現状維持を意味します。
いわば、「そのまま」が一般的な意味での「保守」です。
しかし、会計処理の「現状維持」を意味するのが保守主義ではありません。
健全な会計処理を行うことによる「企業の」現状維持が保守主義の考え方です。

企業会計上、複数の会計処理が認められる局面は少なくありません。
このような場合にもっとも健全な会計処理を行うべきことを指示するのが、保守主義の原則です。
ここに健全な会計処理とは、利益を多く計上することによる配当や課税による財産の流出を回避する会計処理を意味します。
もっとも対外的な取引の数値は会計処理方法にかかわらず変りません。
その意味では、費用を早めに、収益を遅めに計上するのが保守主義的といえるでしょう。

(まとめ)
企業の財政に不利な影響を及ぼす場合には、これに備えて適当に健全な会計処理(認められた範囲内での費用の早期計上、収益の慎重な計上)をしなければならない。
(政策論としての保守主義)
保守主義の原則は、他の一般原則と比べるとかなり異質です。
それは、本文で指摘したように「保守」という言葉が会計処理そのものを指してはいないことからもわかります。
他の一般原則が、「真実」や「継続」、「明瞭」など会計処理等を直接的に示したものであるのに対して保守主義は間接的です。

会計学以外の歴史のある社会科学(例えば経済学)は、基礎理論と政策論とが分離しています。
純粋理論(基礎理論)と実践理論(政策論)とがそれぞれ影響しあいながらも別個に存在しているのです。
これに対して会計学では、基礎理論と政策論とが未分離の状態にあります。
このことは念頭においておいた方がよいかもしれません。

いくつか考えられる処理方法の中でもっとも利益が少なくなる方法を良しとするなら、保守主義以外の他の判断基準は不要でしょう。
いや、そもそも複数の処理方法自体が必要ないことになります。
筋道を追って考えをまとめる際には、安易に保守主義を持ち出すべきではありません。
最終的な会計処理を考える場合に、保守主義的思考は避けられないかもしれません。
しかし、できるだけ保守主義に頼らずに考えてみることが必要ではないかと思います。

最近の会計基準の動向を見るとこの保守主義の影響は小さくなっています。
「保守主義は死んだ」などと過激なことをいえるかはともかく、次のようなケースを考えても保守主義の影響の縮小をみてとれるのではないでしょうか。
・研究開発費の費用処理
・棚卸資産の評価
・工事契約の損益の認識