それほど数多くの本を読んでいる訳でもないので、あまり断定的な事もいいずらいが、すぐれた小説や随筆には、必ずしも直接的な表現ではあらわされることのない言外のメッセージが込められている場合が少なくない。

小説や随筆の場合とでその在り方は異なるだろうが、簿記の問題にも、表面からは見えてこないメッセージが込められている場合がある、と思う。
以前にご紹介した公認会計士試験の過去問(「最強の過去問」参照)には、あまりにも鮮烈なメッセージが込められていた。
そのメッセージへの賛否の判断はひとまず置くとしても、そのメッセージに作問者の熱い思いが込められていることは想像に難くない。
そしてその思いはこれまでの長い研究・教育生活を経て形成された筈のものであり、一朝一夕で簡単に変るとは到底おもえない。
問題に込められたメッセージが鮮烈であればあるほどその感は強くなる。

昨年、一昨年の簿記論の第二問には、それが共鳴することができるかどうかはともかく、強いメッセージが込められていたと思う。
それは、テクニックに走り、時としてその本質を見失いがちな受験生、いや、指導する側に向けられたものであると少なくとも私は感じていた。
だからこそこのブログでも過去2年の第二問をじっくりと分析もした。
しかし、蓋を開けてみると出題はいたって平凡なものだった。
標準よりも難易度は低く、量も少ない。
いや、難易度や量の問題ではない。
メッセージの欠落こそが問題なのだ。
少なくとも今年の第一問からは過去二年の第二問に含まれていたのと同質のメッセージは見えてこない。
その事については、今でも釈然としないが、メッセージは果たして失われたのだろうか。

少なくとも今年の第一問をみる限り、メッセージは失われたか、全く異質のメッセージが込められていたかのどちらかとしか思えない。
前者であることは、考えられない。
とすれば後者ということになろうが、そうでないことをただ祈りたい。