もう、数年も前の話になるが、簿記検定絡みである事件が起きた。
新聞でも取り上げられたので、別に伏せる必要もないとは思うが、必ずしも事件そのものをどうこういいたい訳でもないので、どの検定かは、伏せておくことにしよう。
簡単にいえば、問題漏洩事件である。
問題の内容が漏洩し、その漏洩を受けた当事者のその事実を書いた手紙が検定実施日よりも前の日付の消印で主催者側に届いというのが事件のあらましである。
これに慌てた主催者が、弁護士をたてて内部調査まで行ったものの、結局は、漏洩はなかったという発表を行ったことで、事件は幕を引いた。

漏洩が現実にあったかどうかはわからない。
あったのかもしれないし、なかったのかもしれない。
ただ、事実関係だけを考えると、その回の合格率は極めて低いものであった。
問題が新規の内容・形式を含んだとても難しいものだったからである。
もし、漏洩があったとするなら、その誘因として、問題の難しさはあったかもしれない。
難しさというよりも形式の急激な変化といった方がよいのかもしれないが。

私自身、その回の少し前くらいから、傾向の変化は感じていた。
出題がどこか今までにない形式を含むようになっていたのである。
また、直前の回と内容の近い出題も行われるようになったが、その検定では、それまで長い間なかったことだった。
問題の漏洩事件があった回の出題が、そのような変化にもっとも富んだ出題だったといってよいだろう。

ちょうどこの頃から検定試験や国家試験に出題の狙いやポイントといったものの公表がみられるようにもなった。
出題の簡単な意図を公表することの狙いは、とてもよくわかる。
どのような学習をして欲しいのかということの出題者側(主催者側)の表明でもあるのだろう。

検定試験である以上、きまりきった処理ができればいいし、問題にそれほど変化をつける必要はないという意見もあるだろう。
しかし、あまりに定型的な解法を身につけることでよしとする受験生に対し、このままではいけないのではないかとの危機感を感じているという意見を耳にすることも少なくない。

その後、その検定試験の合格率は、蛇行を続けている。
その余波を簿記論が受けたという訳ではないだろうが、簿記論の合格率も今までにない変化をみせた。
検定試験と国家試験では、事情は、もちろん違うだろうし、出題者も一人という訳ではない。
税理士試験の簿記論では、4人の出題者が三問の出題をするのであるが、果たして出題者は、何を思い、そしてどのような出題を行うのだろうか。
簿記論の出題者が、検定試験での漏洩事件の事を知っているかどうかはわからない。
しかし、その漏洩事件(本当にあったかはわからないが)の誘因となった事実に、思いを馳せているであろうことに間違いないのではないだろうか。