企業会計原則の規定で、真っ先に学習すべき重要なものといわれたら、私はこの規定をあげたいと思います。

まずは、規定をみておきましょう。


「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。」


必ずしも難解な語句が入っている訳ではありませんが、具体的なイメージはわくでしょうか?

おそらくは、伝統的な会計学(新基準以前の会計学)の核であると思います。


文章を二つに分けて考えてみましょう。

「すべての費用及び収益は、

(1)その支出及び収入に基づいて計上し、

(2)その発生した期間に正しく割り当てられるように

処理しなければならない。」


単純にいうと「費用・収益を処理しろ」といっているのですが、その内容が二つあることがわかります。

(1)収支(収入・支出)での計上

(2)発生期間への割当(発生主義への修正)

この規定こそが企業会計原則における発生主義の原則(法規集などのタイトルもそうなっています)を規定したものといえますが、企業会計原則における発生主義の原則は、短くいえば「収支の期間配分」を意味しています。

企業会計原則にいう発生主義の原則は、いきなり「発生」を捉えるのではなく、(1)いったん現金収支を考えて、(2)これを発生という観点で修正したものを想定していることがわかります。

具体的な例で考えてみましょう。

経過勘定項目(前払費用)の例です。


(例題)次の取引の仕訳を示せ(会計期間1月〜12月)

(1)当期の4月1日に1年分(4月から翌年3月分)の家賃120円を現金で支払った。

(2)決算をむかえた。

(解答)

(1)支払家賃120 現  金120 ←現金支出を基礎に「費用」計上

(2)前払家賃 30 支払家賃 30 ←(1)を発生主義の「費用」に修正

(解説)

この例題は、そのまま企業会計原則にいう発生主義の原則の(1)現金収支(この場合は支出)での計上、(2)発生主義への修正(120−30)に対応しています。


このように考えると、企業会計原則にいう発生主義の原則の狙いは、前払家賃を計上することではなく、支出120を費用90に修正することにあることがわかります(もちろん簿記処理としては借方・貸方の区別はなく、同時に計上されますが)。

当初は「費用」120として計上され(1)、そのうちの当期分の費用ではない30を費用(支払家賃)から資産(前払費用)に振替えるのが(2)の仕訳ということになります。


このような考え方は、例えば減価償却などについても全く同様といえます。

ただし、減価償却の場合には、?で「資産」に計上し、これを(2)で「費用」に振替えるという違いがあります。

(1)固定資産 (資産)100 現  金(資産)100 ← 支出額での計上

(2)減価償却費(費用) 10 固定資産(資産) 10 ← 発生主義への修正


経過勘定項目(前払費用)の場合とでは、最初に費用にするか、資産にするかの違いがあるだけで、(1)支出額での計上と(2)その発生額への修正という構図は変わっていません。

簿記的にいうならば、(1)は期中手続であり、(2)は決算整理と呼ばれます。
伝統的な会計学における発生主義の原則が、収支額の期間配分を意味しているという点は極めて重要です。

ぜひ、他の項目、例えば、他の経過勘定項目、消耗品などで、実際に仕訳を想定して、考えてみてください。

損益計算書原則一Aをどれだけ身近に感じることができるかが、伝統的な会計学の理解の要であると思います。