象。

あの鼻の長い象である。

誰もが知っている象ではあるが、象を知らぬ幼子に象がいったい何であるかを伝えるのはおそらくは難しい。

もちろん、実物を見れば「ああ、これが象なんだ」と実感するだろうし、映像や写真を見せても象についてのイメージはわくだろう。

しかし、動物園に行った事もなく、映像や写真、絵などでも象を見たことのない幼い子に、言葉だけで、象がどんな動物かを伝えるのは想像以上に難しい事ではないかと思う。


これは必ずしも簿記に限ったことではないが、抽象的な概念を理解する営みは、みえない象をみようとする行為に似ていると思う。

みえないという前提のもとでは、いくら目を凝らせても象について何もわかりはしない。


鼻が長い。


大きい。


尻尾は小さい。


等々、小さな情報を一つずつ積み重ねていく以外にないのである。


簿記では、企業の経済活動という極めて具体的な出来事を扱う。

簿記の基本的な仕組みや金額の計算も極めて具体的である。

しかし、よく考えてみると、その中で扱われている資本、費用、収益などをとってみても実際には、極めて抽象的な概念であることがわかる。


資本とは何かを定義することも簡単にはできないし、ましてやこれが資本だと目に見える形で示すことなどできはしない。

具体的な出来事を扱う簿記であるが、その中には、多くの抽象的概念がある。


急いでも仕方がない。

何しろみえないのだからゆっくりといくしかない。