(1)簿記の意義
【簿記とは】
簿記とは、何でしょうか?
「簿記」は、「帳簿記入」や「帳簿記録」の略だといわれます。
つまり、帳簿に記入・記録することが簿記です。
何をどのように記録するのかがわかれば簿記の姿も見えてくるでしょう。

【記録の対象】
一般に簿記は広く「経済主体が営む経済活動」を記録の対象とします。
この意味では、家庭の主婦が家計簿をつけることや学生がこづかい帳をつけるのも簿記です。
ただ、家計簿やこづかい帳は、家庭や個人がそれぞれ自由に記入すればよく、その内容もそれほど複雑ではありません(家計簿やこづかい帳をつけるにはかなり根気がいりますが……)。
これから学習する簿記の対象は複雑な経済活動を営んでいる「企業の経済活動」です。

【企業とは】
もうけようとして、利益を得ようとして活動をしている個人や組織を企業といいます。
営利目的で活動する個人や組織を企業といいます。
企業の営む経済活動とわたしたち個人の営む経済活動(消費活動)のもっとも大きな違いは、この営利目的の有無にあります。
このため企業活動を記録する簿記にも正しいもうけ(利益)を計算するという見方が必要です。
簿記では、もうけの計算のことを損益計算と呼びます。
なお、もうけは「利益」、損は「損失」といい、両方をあわせて「損益」といいます。

【経済活動とは】
企業の経済活動といっても実に様々です。
商品を購入し、これを販売する。
資金を調達し、または資金を貸し付ける。
固定設備を購入し使用する。
このほかにも企業は様々な経済活動を行います。
ここでは単に企業の行う活動のうち金銭に置き換えて記録できるものが簿記の記録の対象になる企業活動と考えておきましょう。

【簿記とは】
さて、簿記とは何かをもう一度整理しておきましょう。
「簿記とは、企業の経済活動を記録すること」をいいます。


(2)簿記の目的
【簿記の目的】
簿記は、企業活動の記録です。
それでは何故、企業はその活動を記録するのでしょうか。
簿記の目的はいったい何でしょうか。

【財産の管理】
簿記は、企業活動の帳簿記録です。
その簿記の目的を考える前に、私達が記録を行うのは何故かを考えてみましょう。
たとえば面白いテレビ番組を見て、その話を友達にしようと思ってメモをとったとします。このメモをとる行為がまさに記録です。
この場合に何故メモをとるのかといえばその事を忘れずに友達に話すためでしょう。
企業も同じです。
今どれだけ財産をもっているか。
だれにいくら貸しているのか。
今月はいったいどれだけ売れたのか。
そんなことを忘れないための歴史的な記録(日付順の記録)が必要なのです。
このような歴史的な記録を組織的に行うことが財産の管理にも役立つことになります。

【財政状態を明らかにする】
みなさんはいま現在、どれだけ財産を持っているかを把握しているでしょうか。
財産の種類が少なければ特に記録しなくても分かるかもしれません。
しかし、財産の種類や量が多いと、記憶だけに頼ることはできません。
簿記の記録を組織的に行うこと(このような方法は今後学習していきます)によって財産がどれだけあるかが分かります。
企業の財産の状況を財政状態といいます(財産状態ではありません)。
簿記の主要な目的の一つはこの財政状態を明らかにすることにあります。
企業の財産の状況をあらわす書類、つまり、企業の財政状態を表示する書類(表)が貸借対照表です。

【経営成績を明らかにする】
企業活動の目的は、利益を獲得することにあります。
簿記の主要な目的もこの獲得した利益がいくらかを計算(損益計算といいます)することにあります。
商品販売業であれば商品をいくらで買って、いくらで売ったのかをきちんと記録しておかなければいくらもうかったのかもわかりません。
企業の損益の状況を経営成績といいます。
簿記の主要な目的の一つはこの経営成績を明らかにすることです。
企業の経営成績をあらわす書類(表)を損益計算書といいます。


(3)簿記の種類
【単式簿記】
こづかい帳や家計簿をつける場合、現金の出入りを中心に記録を行います。
一定の期間(月を単位にする場合が多いでしょう)ごとに現金の入りと出を記録し、これに多少の加工(預金の出入りやお金の貸し借り等)を加えて一ヶ月の収支を計算する形で行われます。
このように特定の財産(通常は現金です)などの変動を記録することが中心となる簿記を単式簿記といいます。
なお、単式簿記が、検定試験で出題されることはありません。

【複式簿記】
単式簿記に対して企業の経済活動を二面的にとらえ、組織だって記録する簿記を複式簿記といいます。
単式簿記は企業の特定財産などの変動だけに着目しています。
これに対して、複式簿記は、「財産の変動」と「その原因」に着目し、経済活動の記録を常に二面的に行います(具体的な記録の方法については以下で学習します)。
以下で、単に簿記といった場合は、この複式簿記を意味します。

【業種による区分】
簿記は適用される業種によっても区別されます。
商業(商品販売業)に適用される簿記が商業簿記です。
工業(製造業)に適用される簿記が工業簿記です。
そのほかにも銀行簿記や農業簿記などがあります。

【商業簿記】
商業簿記とは、商業に適用される簿記です。
商業とは、商品を購入し、これを売却することによって利益を獲得することを目的とする業種を意味します。
商業を営む企業は利益を獲得する目的で資金を募り、この資金をもとに商品を購入し、その購入した商品を購入金額より高い金額で売却することによって、当初の資金よりもより多い資金を手にします。
このより多い資金、つまり、資金の余剰部分が利益です。
このような意味での活動は商業以外の業種でも多かれ少なかれ行われます。
商業簿記が簿記の基礎になると考えてよいでしょう。
これからみなさんが学習するのは複式簿記による商業簿記です。

(4)資産・負債・資本
【財政状態を明らかにする】
簿記は、企業活動の記録です。企業の活動を歴史的に行い、財政状態(財産の状況)と経営成績を明らかにすることが簿記の目的です。
ここではこの財政状態を明らかにすることの意味をもう少し考えましょう。

【資産・負債・資本】
いままで財政状態とは財産の状況だと説明してきました。
この財産という言葉は一般的な言葉で、簿記では、これを資産グループ、負債グループ、純資産(資本)資本グループに分けて考えます。
資産は、プラスの財産です。
資産には、現金や預金、商品、建物などあります。
よく「借金も財産のうち」などといわれますが、マイナスの財産が負債です。
資産と負債の差額、または企業活動の「もとで」を純資産(資本)です。

【資産】
資産とは、プラスの財産です。
もう少し具体的にいうと目に見える形で存在している財貨(もの)と債権などの権利が資産です。
資産には、現金、預金、商品、建物などがあります。

【負債】
負債は、マイナスの財産です。
負債の多くは法律上の債務(借入金など)です。

【純資産(資本)】
資本とは、企業が活動を行うにあたってのもとでです。
また、資産と負債の差額としても算定されます。
このような意味では資本のことを純財産、正味財産、純資産ともいいます。
この資本というのがなかなか分かりにくいのではないでしょうか。
資産の多くは目に見える形で存在しています。負債にも具体的イメージ(借金など)は伴うでしょう。
資本には、具体的なものはないのです。資産と負債の差額としてのもとでが資本なのです。

【資産・負債・純資産(資本)と貸借対照表】
資産、負債、純資産(資本)に属する項目を集めて一覧の形で表示した表が貸借対照表です。


(5)費用・収益
【経営成績を明らかにする】
簿記は企業活動の記録です。企業活動を歴史的に記録し、企業の財政状態と経営成績を明らかにするのが簿記の目的です。
ここでは経営成績を明らかにすることについて考えましょう。

【企業活動と損益計算】
企業は営利を目的としています。儲けることを目的とした存在が企業です。
簿記の目的もこの損益を適切に算定することです。
たとえば一個100円の商品を仕入れ、これを120円で販売したとします。
この場合の儲けは120円-100円=20円と計算されます。この20円がもうけ=損益です。

【損益計算と期間計算】
財産をどれだけ所有しているかの計算は、特定の時点で行われます。
これに対し、損益の計算は一定期間を区切って行われます。
企業会計上の損益の計算期間を会計期間(事業年度、営業年度)いいます。
なお、会計期間の初めを期首、終わりを期末といいます。
一会計期間の適正な損益計算を行い、企業の経営成績を明らかにすることが簿記の主要な目的です。

【損益計算と収益及び費用】
簿記上の損益計算は、収益から費用を差し引いて算出されます。
先ほどの商品販売の例では120円-100円として損益を計算しました。
この120円が売上という収益であり、100円が仕入(売上原価)という費用です。
少し抽象的かもしれませんが、「費用と収益」の関係は「努力(費用)と成果(収益)」との関係として把握できます。

【収益】
収益とは、経営活動による純資産の増加を意味します。
つまり、もとで以外のもうけ(の原因)が収益です。
収益には、売上、受取利息、受取手数料等があります。

【費用】
費用とは、経営活動による純資産の減少を意味します。費用には、支払家賃や支払利息等があります。
もとでの減少以外のそん(もうけの減小の原因)が費用です。

(6)企業活動と取引
【簿記と取引】
企業の経済活動の記録が簿記です。
簿記の記録の対象となる経済活動が取引です。
取引があった場合に簿記上の記録を行います。
簿記上の記録を行うか否かは、取引が行われたか否かによりますので、簿記上の取引に該当するか否かは重要です。

【簿記上の取引】
簿記上の取引と一般的な意味での取引とでは少し意味が異なります。
一般的な意味での取引には、やりとりというような意味合いがありますが、簿記の記録の対象となるのは、いわば資産、負債、純資産(資本)のやりとりです。
簿記上の取引とは、資産、負債、純資産(資本)に増減を生じさせるような経済的事象をいいます。
資産、負債、資本に変動があった場合に簿記上の記録の対象にします。

【簿記上の取引と一般的な取引の違い】
簿記上の取引と一般的な意味での取引は多くの場合は同じですが、違う場合もあります。
例えば、単に取引の契約を結んだり、商談が成立したといった場合、一般的には取引を行ったといいますが、簿記上の取引にはあたりません。
資産、負債、純資産(資本)に変動がないからです。
逆に災害や盗難にあった場合は、一般的には取引とはいいません。
ただ、災害や盗難が資産の減少をもたらす訳ですから、このような経済的事象も簿記では取引といい、記録の対象にします。

【取引の具体例】
備品を現金で購入した場合を例に考えてみましょう。
備品を現金で購入したのですから備品という資産が増え、現金という資産が減っています。
ですからこの経済的事象は簿記上の取引に該当し、簿記の記録の対象にします。
従業員の給料を現金で支払った場合はどうでしょうか。
現金という資産が減少していますので、簿記上の取引に該当し、記録の対象となります。
この場合、給料という費用が生じます。
災害で建物が焼失した場合はどうでしょうか。
建物という資産が減少している訳ですからこれも簿記上の取引になります。この場合には災害損失(火災損失)という費用が生じます。