このところの財表理論では、基礎概念に関連した出題が続いています。

昨年が「配分」でした。

すでにこのブログでは「対応」を題材に「対応とは何か(1)〜」、「実現」を題材に「実現とは何か(1)〜」を書いています。

そういえば「発生とは何か」と題しての記事を書いていませんでした。

ちょっとだけ考えておきましょう。
「発生」の語が使用される局面としては、大きく二つ考えられるでしょうか。

一つは、システムとしての「発生主義会計」という場合です。

もう一つは、費用(収益)の認識原則としての「発生主義」という場合です。

いずれも現金収支や権利義務の発生ではなく、経済的な価値の増加や減少といった意味(かそれに近い意味)で使用されています。

「発生」という語の意味が企業会計原則等にあるわけではありません。

そのためか特に引当金のところがかなり分かりにくいです。

この引当金を想定しながら「発生」の意味について考えてみましょう。



まずは、ごく一般な考え方を整理しておきます。

企業会計の役割は、企業活動を描き、その結果を利害関係者に伝えることにあります。

企業活動に伴う価値の増減を発生と捉えることに大きな違和感はないでしょう。

費用に限定すれば価値の減少(消費・費消)です。

価値の減少をとらえ、そのタイミングで費用を認識するのが費用の認識における発生主義です。

これに対して引当金設定の局面でもう一つの発生主義が語られることがあります。

いわゆる原因発生主義です。

価値の減少ではなく、価値の減少をもたらす原因の発生をもって費用認識の基礎とする考え方です。



原因発生主義は、企業会計原則の今の注解18が登場したときに語られるようになりました。

まずは、その出だしを確認しておきましょう。

「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、」

要件の2個目に「その発生が当期以前の事象に起因し、」とあります。

この文章を忠実に読めば、当期以前に原因を想定していることは明らかです。

では、ごく一般的な意味での消費はどのタイミングと考えているでしょうか。

出だしの「将来の特定の費用又は損失」という表現を考えるとこれと消費とが見合っていると考えられそうです。

つまり、あくまでも消費は将来にある。

未「発生」事象への対処が引当金という考え方です。


当期以前⇒原因の発生

翌期以後⇒消費


このような構造を持つ事象を引当金の対象とし、いわゆる原因発生主義により引当金を考えたのが注解18といってよさそうです。



これに対しては反論もあります。

たとえば退職給付引当金を考えてみましょう。

退職給付はこれまで一貫して賃金の後払いと考えられてきました。

原因発生主義によれば、次のように説明できるでしょうか。

将来における退職金の支払いを当期の労働サービスの提供を原因として費用として認識する。


しかし、少しおかしくないでしょうか。

たとえば通常の給料が未払である場合にこれをどう説明するのでしょうか。

当期に労働サービスが提供(消費)されたことを根拠に当期に費用として認識すると説明できそうです。

なぜ同じ賃金の後払いなのに退職金は原因の発生で、給料は消費になってしまうのでしょうか。

むしろ、両方とも消費で説明すべきではないかというのが一つの考え方でしょう。



修繕引当金の設定についても同様のことが言えそうです。

原因発生主義では、将来の修繕作業実施時の修繕材料やサービスの消費を固定資産の使用を原因として認識すると説明されそうです。

しかし、これについても例えば全く未使用の固定資産でも維持・管理のために定期修繕等は実施するでしょう。

家なんかは使わないとかえって痛むといいます(って、これは違うかな)。

つまりは使用を原因として修繕を実施するのではなく、何らかの意味での価値の減少があったからと考えるのが自然ともいえそうです。



このようにごく一般的に語られることの多い原因発生主義。

でも、少し違う視点で眺めておくことは試験的にみても大事かもしれないですね。

原因発生主義とそれに対する反論を通じて、「発生」の意味を今一度考えておきましょう。