企業会計上の根本原則に資本と利益の区別の原則があります。

これを規定したのが企業会計原則の第三原則です。
「資本取引と損益取引とを区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。」

第三原則では、その前段で期間損益計算の適正化の見地から資本取引と損益取引の区別を要求しています。

後段はストックの面での資本と利益の源泉別区別を要求しているといわれます。

もっとも後段に関しては商法・会社法におけるその他資本剰余金の分配の許容を考えてもわかるようにその意味は変質していると考えるべきかもしれません。

仮に資本が維持拘束されなければならず、利益が処分可能なものであるなら、表示面における区分にとどまらず、その他資本剰余金の配当そのものに大きな異論がなければおかしいでしょう。

ストック面におけるそのような区分に分配規制以外の大きな意味はないというべきなのかもしれません。


最後にその他資本剰余金の配当に関する税理士試験の過去出題をご紹介しておきましょう。


(1)平成15年 第二問 問2 3

 株式払込剰余金の取崩額を原資として配当を行うことは「一般原則三」の趣旨に反するであろうか。理由を付して述べなさい。

(2)平成19年 第一問 3

 会社法の計算規則では、「剰余金の配当」が規定されている。これに関して、次の問に答えなさい。(1) 剰余金の中の「その他資本剰余金」には、どのようなものがあるか。2つ示しなさい。(2) それらの配当可能性の是非に関し、企業会計の基本的観点から理由とともに述べなさい。


(1)の当時の模範解答は「反しない」、(2)(2)の模範解答は「非」が多かったようです。

同様な問いかけでも答えが変わるのは、その前後の出題内容に基づいているからでしょう。


金融商品会計基準導入前後には、有価証券をめぐる出題が頻出しました。

会社法施行から5年。

まだ結論が出ているとは言い難い資本と利益の区別に対する出題があってもおかしくありません。

そのときに単に資本は維持拘束すべきものであり、利益は処分可能であるといった前提を持った出題がなされるのか。

見直されるべき要素を孕んだものと考えた出題がなされるのか。

それは出題者が決めることであって、あらかじめ想定できるものではありません。

あるいは両者の分岐そのものを問題にしているかもしれません。

大事なのはただの結論ではなく、その結論に至る過程です。

そんなことを感じさせてくれる課題の一つがこの資本と利益の区別というべきなのでしょう。



資本と利益の区別(完)