第三原則以外の会計基準からこれまでの考え方が垣間見られる規定をみておきましょう。
「資本剰余金」と「利益剰余金」については、企業会計原則に規定があります(注3)。

資本取引に関しては、これまでそれが何かを具体的にした規定はありませんでした。

比較的新しい包括利益基準21項では次のように述べています。

「包括利益を表示する目的は、期中に認識された取引及び経済的事象(資本取引を除く。)により生じた純資産の変動額を報告することである。」

ここで「資本取引」の語が登場します。


ここでは包括利益の意味内容に立ち入ることはしません(「包括利益と純利益(1)〜をご参照ください。」。

包括利益のうちリスクから解放された投資の成果が純利益です。

この「資本取引を除く」というかっこ書は利益概念(包括利益か、純利益か)を問わず共通でしょう。

期中に純資産が増加しても、それが増資等による資本取引によるものである限り、利益にはなりません。

利益は純資産が増えた分ですが、増資は影響しないわけです。


では、利益処分取引はどのように位置付けられるべきでしょうか。

利益処分により純資産は変動(減少)します。

利益処分による純資産の変動額も当然に利益計算から除外しなければなりません。

利益処分取引もかっこ書で除かれる必要があるのです。

21項だけからは分かりにくいですが、そもそもの包括利益の定義(4項)を考えても、資本取引は、株主との直接的な取引といえるでしょう。

現行の会計基準では、利益処分取引も含む株主間取引が資本取引と考えられています。

概念フレームワークに資本取引の語は出てきませんが、むろん同様の理解に立っています。


利益処分取引は株主との直接的な取引です。

つまり、利益処分取引は、資本取引に該当します。

この点、当初の企業会計原則との関係は明確に変化していると言えそうです。


今日では第三原則の前段は、適正な期間損益計算の見地から取引を区別するという趣旨であるという理解が一般的であり、これは現行の会計基準の理解とも整合的しています。

問題なのは、むしろ後段でしょう。



資本と利益(6)