工事契約に関する会計基準(以下「工事契約基準」という。)に関する以下の各問について、答案用紙の所定の箇所に解答を記入しなさい。


次の文章の空欄(ア)から(ウ)に適切な用語を記入しなさい。
企業会計原則において、長期の請負工事に関してa工事完成基準のほかb工事進行基準が認められているのは、……、c一定の条件が整えば当該工事の( ア )に応じて対応する部分のd成果の確実性が認められる場合があるためと考えられる。すなわち、当事者間で基本的な仕様や作業内容が合意された工事契約について、施工者がその契約上の義務のすべてを果たし終えておらず、e( イ )には対価に対する請求権を未だ獲得していない状態であっても、( ウ )はこれと同視し得る程度に成果の確実性が高まり、収益として認識することが適切な場合があるためと考えられる。



企業会計原則では、長期工事の請負に関する収益の認識に関して下線部aとbが認められていた。
(1)企業会計原則で複数の収益認識基準が認められていた理由を端的に指摘しなさい。
(2)討議資料「財務会計の概念フレームワーク」における意思決定有用性の一般的制約となる会計情報の質的特性を2つ示し、そのうちのいずれか一つと上記取扱いを関連付けて企業会計原則における工事収益の認識の是非について論じなさい。


現行制度上は、売買目的有価証券及びその他有価証券はいずれも時価で評価されるが、前者の評価差額が損益とされるのに対して、後者の評価差額は損益とされていない。
(1)両者の評価差額の取扱いの違いの背後にある利益認識の考え方を簡潔に説明しなさい。
(2)上記(1)の考え方をもとに「工事契約基準」における工事契約の認識基準の適用関係を説明しなさい。なお、説明に際しては、下線部dの語句を用い、下線部cについても触れること。


工事契約基準では、下線部eの状態であっても下線部bの方法により収益認識を行うことがある。
(1)下線部bの方法につき簡潔に説明しなさい。
(2)「工事契約基準」での(ア)の算出方法を簡潔に説明しなさい。なお、もっとも一般的と考えられる方法の内容を簡記し、その他の代替的方法があればそれを指摘すること。
(3)上記(2)における一般的な方法が合理的ではないケースを端的に指摘しなさい。


工事完成基準は、これまでの一般的な収益認識基準である実現基準の適用と同様と考えられる。通常の商品販売等では、代金の回収が長期、かつ、分割の場合に限って実現基準の例外として回収基準や回収期限到来基準が認められているが、長期工事の請負代金の回収が長期、かつ、分割である場合に「工事契約基準」では、これらの基準の適用が認められるか否かを論じなさい。


工事進行基準の採用時に工事収益総額等に見積りの変更があった場合と減価償却資産の耐用年数の変更があった場合の取扱いの違いを簡潔に説明しなさい。

【解答欄】

ア       イ       ウ


(1)


(2)
質的特性の名称 (       )
質的特性との関連




(1)


(2)



(1)

(2)

(3)












【解答】
【解答】
1(各1点)
ア 進捗  イ 法的  ウ 会計上


(1)(2点)
企業が実態に応じた認識基準を選択することで、その実態をより適切に反映すると考えられるためである。
(2)名称(各1点、関連2点)
質的特性の名称(内的整合性、比較可能性)
質的特性との関連:
比較可能性の視点には、時系列比較と企業間比較があるが、収益認識の方法が企業間で異なれば企業間における比較可能性を害することになり、複数の収益認識方法を認める企業会計原則の取扱いは、比較可能性の観点から妥当ではない。


(1)(2点)
投資にあたって期待された成果が事実として確定した時点、すなわち、企業の行なった投資がリスクから解放された時点で利益認識を行うこととされる。
(2)(3点)
工事契約に関して、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合、すなわち、その進捗に応じて投資のリスクからの解放が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用する。


(1)(2点)
工事進行基準とは、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を認識する方法をいう。
(2)(2点)
決算日までに発生した工事原価と工事総原価の比率で工事進捗度を測定する原価
比例法が一般的であるが、施工面積や直接作業時間を基準とした方法を採用することができる。
(3)(2点)
工事原価の発生よりも工事の進捗度を反映する他の指標が存在する場合

5(3点)
工事契約基準では、工事契約に基づく工事の進捗に応じて、それに対応する成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、これに該当しない場合には工事完成基準を適用するのであるから、完成・引渡し後に工事収益及び工事原価を認識することとなる回収基準及び回収期限到来基準の適用は認められない。

6(2点)
工事進行基準を採用時の見積りの変更があった場合には、変更期に影響額を損益として処理するが、減価償却資産の耐用年数の変更があった場合には、変更期以後の費用配分に影響させる。


【解説】

工事契約基準39項参照



企業会計原則では、長期請負工事に関する収益認識に工事進行基準と工事完成基準の選択適用が認められていました。
このような考え方の背後には、企業の実態をもっともよく知る経営者(企業自身)に適切であろう方法を選択させることが、企業の実態をもっともよく表すハズであるという考え方があります。

一方で経営者には、様々な理由から利益を操作する誘因があります。
複数の処理方法の選択を経営者に委ねることは、より実態に即した開示につながるであろう反面、利益操作の余地を残すことになります。
また、企業に選択適用を認めると財務諸表の比較可能性を害するという問題も指摘されていました。

討議資料「財務会計の概念フレームワーク」では、財務報告の目的を投資家の意思決定に役立つための事実の開示にあると考えています。
会計情報の質的特性としてもっとも重視されるのは意思決定有用性です。
これを支える基本的な特性として意思決定との関連性と信頼性があり、一般的制約となる特性として内的整合性と比較可能性があります。

本問では、意思決定有用性の一般的制約である内的整合性と比較可能性を指摘した上で、比較可能性の観点から工事進行基準と工事完成基準の選択を認める従来の方法に問題があることを指摘する必要があります。



工事契約基準の基礎にある利益認識の考え方が投資のリスクからの解放です。
そもそも投資は、リスク(不確定性)のない確実な資産(現金)をリスクのある他の資産と交換する行為を意味します。
リスクのない現金とリスクのある資産(たとえば固定資産)の交換が投資です。
現金をリスクにさらす行為が投資であるといってもよいでしょう。

リスクのある投資のそのリスクの消滅を待って利益を認識する考え方がリスクからの解放です。
概念フレームワークでは、「投資にあたって期待された成果が事実として確定すること」がリスクからの解放であると説明しています。
一般的には、投資を行う以前の投資のリスクに拘束されない資産(ごく一般的には現金)の流入を待って、投資はリスクから解放されます。

リスクからの解放は、これまでの収益認識における実現主義を洗練させたものといえるでしょう。
実現主義とはやや異なるのがその守備範囲です。
実現主義が収益認識を対象としているのに対して、リスクからの解放は、基本的には、純利益に関する認識の考え方です。
概念フレームワークでは、構成要素の定義を資産(負債)からスタートしており、利益概念の定義もこれらに依存した純資産の変動額として定義しています。
純資産の変動額である包括利益を純利益に絞り込むためにとった概念フレームワークにおける利益認識の考え方がリスクからの解放です。

純利益は収益−費用で算出されますので、収益と費用の認識に関しても同様の考え方がとれるハズです。
概念フレームワークでは、認識の対象を収益と費用認識にまで拡張(グロスアップ)しています。
このことは純利益、そして収益、費用の定義をみるとよくわかります。
つまり、リスクからの解放は、純利益の認識に関する考え方であり、収益と費用の認識に関する考え方でもあるわけです。

そもそも実現主義を進化、発展させたものがリスクからの解放です。
リスクからの解放における収益認識は、事業投資ではこれまでの実現主義と大きく異なりません。
大きく異なるのが金融投資です。
例えば売買目的有価証券は、時価変動そのものが企業のネライであり、時価の変動額が投資のリスクから解放されたものとして当期の損益とされます。
もっともその他有価証券に関しては、時価を貸借対照表価額とするものの売却等には制約もあり、評価差額が投資のリスクから解放されているとはいえず、評価差額を損益にしません。

売買目的有価証券とその他有価証券の評価差額の取扱いの違いを説明できる考え方がこのリスクからの解放です。
一般的な実現概念では両者の時価評価も評価差額の取扱いの違いも説明できません。
本問では、リスクからの解放の説明及びリスクからの解放に基づく工事収益の認識について説明する必要があります。

工事契約基準では、工事収益及び工事原価の認識に関して進捗部分について成果の確実性が認められる場合(すなわちリスクからの解放が進捗に応じて確認できる場合)には、工事進行基準を適用し、そうでない場合には工事完成基準を適用することとしています。
成果の確実性が認められるためには、工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度の見積りが信頼性をもって行うことができる必要があります。



工事進行基準では工事進捗度を算出する必要があります。
工事進捗度の算出方法としては、一般的には、原価の発生割合をもって工事進捗度を算出する原価比例法が採用されます。
しかし、原価の発生割合が必ずしも工事の進捗度を意味するとは限りません。
それ以外の指標が工事進捗度をよりよく表すのであればそれ以外の指標(施工面積や直接作業時間等)を採用すべきでしょう。

原価比例法以外の方法への言及がある点は、工事進行基準の本質が工事原価の発生に依存したものではなく、工事の進捗に依存したものであることをうかがわせます。



工事契約基準における認識基準の選択については、比較可能性を確保する狙いもあり選択適用は認められていません。
あくまでも進捗部分について、成果の確実性が認められるなら工事進行基準を適用し、そうでないなら工事完成基準を適用します。

企業会計原則では、割賦販売等に関してはいわゆる割賦基準(回収基準、回収期限到来基準)が認められていますが、長期工事の請負に関してこれらの基準の適用は認められません。
回収リスクが高いのであれば、別途、貸倒引当金の設定により対処することになります。

引渡しを基点に考えるとその引渡しのタイミングで収益を認識するのが通常の引渡基準です。
長期工事の請負の場合でいえば、工事完成基準がこれに該当します。
工事の完成、引渡し以前に工事収益を認識するのが工事進行基準です。
これとは対象的に、目的物の引渡しの後に収益を認識するのが回収基準や回収期限到来基準であり、工事完成基準と工事進行基準との対比という意味でも重要でしょう。



工事進行基準を採用する場合には、工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度を見積ることになります。
このような工事進行基準における見積りの変更があった場合には、変更期にその影響額を損益として処理することになります。
有形減価償却資産の耐用年数の変更があった場合には、影響額を変更期に認識する方法として臨時償却が行われてきました。
しかし、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準では臨時償却を廃止し、影響額を変更期以後の費用配分に影響させる方式のみを認める取扱いになっています。


その他に工事契約基準では工事損失引当金の取扱いもしっかりとおさえておきましょう。