次の文章は、「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下「基準」という。)の一部である。関連する下記の各問に答えなさい。

「それぞれの資産の会計処理は、基本的に、投資の性質に対応して定められていると考えられることから、収益性の低下の有無についても、投資が回収される形態に応じて判断することが考えられる。棚卸資産の場合には、……通常、( ア )によってのみ資金の回収を図る点に特徴がある。このような投資の回収形態の特徴を踏まえると、期末時点における( イ )を示す棚卸資産の正味売却価額が、その帳簿価額を下回っているときには、( ウ )していると考え、帳簿価額の切下げを行うことが適当である。」

問1 空欄アからウに該当する語句を答えなさい。

問2 「基準」で対象とする棚卸資産の範囲を列挙し、上記文章における棚卸資産とは必ずしも一致しないと考えられるものがあれば記述した番号で指摘しなさい。

問3 収益性の低下要因を3つあげ、それぞれの要因ごとに収益性の低下との関係がどのように異なるかについて述べなさい。

問4 棚卸資産の収益性が低下した場合の簿価切下額の財務諸表上の表示をその取扱いの理由とともに述べなさい。

問5
正味売却価額がマイナスになった場合は、どのように取扱うべきか。あなたの考えを述べなさい。

問6
同様に資産の収益性が低下した場合の会計処理に固定資産の減損処理があります。
ア 棚卸資産と固定資産の投資の回収形態の違いを端的に指摘しなさい。
イ 棚卸資産と固定資産とで帳簿価額の切下げ後の処理が異なれば、その取扱いの違いを簡単に説明しなさい。

(解答欄)
問1
ア(     )
イ(     )
ウ(     )

問2
棚卸資産の範囲
ア(1行)
イ(1行)
ウ(1行)
エ(1行)
棚卸資産として疑義のある項目(     )

問3
収益性の低下要因
ア(     )
イ(     )
ウ(     )
収益性の低下要因と収益性の低下との関係(1行)

問4(2行)

問5(2行)

問6
ア(2行)
イ(2行)

(解答)
問1(各1点×3)
イ 販売
ロ 資金回収額
ハ 収益性が低下

問2(各1点×5)
棚卸資産の範囲
ア(通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役
イ(販売を目的として現に製造中の財貨又は用役
ウ(販売目的の財貨又は用役を生産するために短期的に消費されるべき財貨
エ(販売活動及び一般管理活動において短期的に消費されるべき財貨
棚卸資産として疑義のある項目(

問3
収益性の低下要因(各1点×3)
ア 物理的な劣化
イ 経済的な劣化
ウ 市場の需給変化
収益性の低下要因と収益性の低下との関係(2点)
それぞれの収益性の低下要因と収益性の低下との関係に違いはない。

問4(3点)
販売活動を行う上で不可避的に発生したものであるため、売上高に対応する売上原価として扱うことが適当である。

問5(3点)
棚卸資産の正味売却価額がマイナスとなった場合は、棚卸資産の帳簿価額をゼロとし、マイナス額(損失見込額)については、企業会計原則注解18の設定要件を満たす場合は、引当金を設定すべきである。

問6(各3点×2)

棚卸資産が販売により資金の回収を図るのに対して、固定資産はその使用を通じて資金の回収を図る点が異なる。

固定資産については帳簿価額の戻入れ(洗替処理)が認められていないのに対して、棚卸資産には帳簿価額の戻入れが認められている。

(解説)
問1
棚卸資産基準37項です。
棚卸資産基準の35項から43項あたりはよく読んでおきましょう。
特に35から37項、41項あたりは、基本的な文章としてネライやすいです。
その中でも37項か、41項がいいです。
いや、あまりにいいので、ここにも書いておきます。
熟読の価値アリです。

「棚卸資産への投資は、将来販売時の売価を想定して行われ、その期待が事実となり、成果として確定した段階において、投資額は売上原価に配分される。このように最終的な投資の成果の確定は将来の販売時点であることから、収益性の低下に基づく簿価切下げの判断に際しても、期末において見込まれる将来販売時点の売価に基づく正味売却価額によることが適当と考えられる。」

問2
棚卸資産の範囲に関する出題です(28項参照)。
あわせて連続意見書第4も読んでおくとベターです。

棚卸資産は、一言でいえば、販売目的の資産です。
財務諸表の表示でいえば、最終的には(一番最後は)売上原価になるのが棚卸資産といってよいでしょう。
しかし、棚卸資産基準の範囲にあげられている資産のうち4個目はちょっと怪しいです。
国際的には、棚卸資産に含められておらず、そのことに対する注意を促す意味で出題しました。
各項目に該当する具体的な資産名称もあげられるようにしておきましょう。

問3
収益性の低下要因と収益性の低下の関係を問う出題です。
39項をみるとわかりますが、棚卸資産基準では、収益性の低下要因を区別して分析していますが、結論的には、要因別に収益性の低下の観点からは相違がないと結論づけています。
このことを初見でしっかりと指摘できるかを確かめるために問題文では相違があるかのような表現をとりました。

問4
簿価切下額の財務諸表の表示に関する出題です(62項)。
その根拠も含めてしっかりとおさえておきましょう。
なお、臨時、かつ、多額な場合のみが特別損失です(17項)。
この取扱いは従来と大きく変わっていますのでおさえておきましょう。

問5
正味売却価額がマイナスになる場合の基本的な考え方を問う出題です(44項)。
正味売却価額の定義をしっかりと把握しておきましょう。
売価−見積追加製造原価・見積販売直接経費が正味売却価額です。
対比の意味で再調達原価もおさえておきましょう。
再調達原価とは、購買市場の時価+付随費用です。
工事契約に関する会計基準の60項以後も参照してみてください。
なお、解答欄が大きい場合には、企業会計原則の注解18の要件にも触れるとよいでしょう。

問6
同様に収益性の低下による帳簿価額の減額処理である減損処理との関係を問う出題です。
固定資産が使用により、棚卸資産が販売により投下資金を回収する点が大きく異なります。
また、棚卸資産には洗替処理が認められていますが、固定資産の減損処理を行った場合は、減損損失の戻入れが認められていません。
これは固定資産の減損損失の認識のハードルが高いためです。
減損損失の認識の判定では割引前の将来キャッシュ・フローを使用します。
つまり、将来損失が生ずる場合にのみ減損損失を測定することとされている訳です。
両者の違いをしっかりと意識しておきましょう。
関連項目として有価証券の取扱いも確認しておきましょう。
売買目的有価証券には、洗替処理が認められています。
その他有価証券は洗替処理を行いますが、減損処理が行われた場合は、洗替処理は行われません。
減損処理そのもののハードルが高い(著しい時価下落、回復の見込みある場合以外)点を確認しておきましょう。
棚卸資産、固定資産、有価証券のいずれも時価による評価をめざしたものではなく、いわば原価主義(原価基準)の枠内における取得原価(帳簿価額)の修正処理(帳簿価額の切下げ処理)である点が共通しています。

(その他の関連項目)
(1)後入先出法との関係
後入先出法の廃止が予定されています。
後入先出法と先入先出法を中心に棚卸資産の評価方法も整理しておくとよいでしょう。
後入先出法は、物価変動時に同一の物価水準による損益計算を行うことができますが、棚卸資産の評価額は時価と離れます。
特に物価上昇時には原価は古い金額のまま据え置かれ、期首の在庫よりも期末の在庫が少ない場合(期首を食い込む売却が行われた場合)には、過去の保有利益が一度に実現するという問題があります。

(2)低価基準との関係
棚卸資産基準の評価は取得原価基準の枠内の考え方におさまります。
この点、従来、認められていた低価基準の考え方とは根本的に異なります。
低価基準は、あくまでも取得原価基準の枠外の考え方であり、取得原価基準の例外として実務的な見地(保守主義)から許容されていたにすぎません。
損益計算との見方との関連でも低価基準は、やや邪道ですが、棚卸資産基準の下では正しい期間損益計算を行うために新しい評価が行われると考えています。

(3)工事契約に関する会計基準との関係
本問にも一部関連しますが、仕掛品も棚卸資産です。
工事契約に関する会計基準についてもその概要と工事損失引当金の基本的な考え方をみておくとよいでしょう。