下記は企業結合に係る会計基準(以下、「基準」という。)の一部である。関連する各問に答えなさい。
「本基準では、企業結合には、取得と持分の結合という異なる経済実態を有するものが存在する以上、それぞれの実態に対応する適切な会計処理方法を適用する必要があるとの考え方にたっている。すなわち、取得に対しては、ある企業が他の企業の( ア )することとなるという経済的実態を重視し、( イ )により会計処理することとした。他方……持分の結合に対しては( ウ )により会計処理することとした。」

問1 空欄のアからウに該当する語句を答えなさい。
問2 「基準」で採用する取得と持分の結合の判定について説明しなさい。
問3 空欄イの方法(以下「第一法」という)について簡潔に説明しなさい。
問4
(1)空欄ウの方法(以下「第二法」という)について簡潔に説明しなさい。
(2)同方法の考え方と共通する収益の認識基準の名称を指摘しなさい。
(3)固定資産を同種の固定資産と交換で取得した場合の現行制度上の取扱いを説明しなさい。
問5 第一法の会計処理では生ずるが第二法の会計処理では生じない項目にのれんがあります。
ア 「基準」におけるのれんの会計処理を簡潔に説明しなさい。
イ それ以外に考えられるのれんの会計処理を指摘しなさい。
ウ イの会計処理を「基準」が採用しなかった理由を3つあげなさい。

(解答欄)
問1
ア(     )
イ(     )
ウ(     )
問2(4行)
問3(2行)
問4
(1)(2行)
(2)(1行)
(3)(2行)
問5
ア(2行)
イ(1行)
ウ(3行)

問1(各2点)
ア 支配を獲得
イ パーチェス法
ウ 持分プーリング法

問2(4点)
次の要件のすべてを充たすものは持分の結合とし、それ以外を取得とする。
(1)対価のすべてが議決権のある株式であること
(2)各結合当事企業の株主が総体として有することになった議決権比率が等しいこと
(3)(1)(2)以外の支配関係を示す事実が存在しないこと


問3(2点)
被結合企業から受入れる資産及び負債の取得原価を、対価として交付する現金及び株式等の時価とする方法

問4(各2点)
(1)
すべての結合当時企業の資産、負債及び純資産を、それぞれの適切な帳簿価額で引継ぐ方法
(2)
実現主義
(3)
取得した固定資産の取得原価には、交換で引渡した固定資産の帳簿価額を付し、交換による損益は生じない

問5
ア(2点)
二十年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法等の合理的な方法により規則的に償却する
イ(2点)
規則的な償却を行わず、のれんの価値が損なわれた時に減損処理を行う
ウ(3点)
競争の進展い伴うのれんの価値の減価の過程を無視することになる
自己創設のれんの計上を許すことになる
実務的にのれんの価値の評価方法が確立されているとはいえない


(解説)
問1
企業結合について基本的な考え方を整理しておきましょう。
複数の報告単位がひとつになるのが企業結合です。
大きくはその経済的実態が取得か、持分の結合かで会計処理が異なります。
取得の場合は、パーチェス法、持分の結合の場合は持分プーリング法が適用されます。

パーチェス法は、買収法とも呼ばれ、取得した資産等に時価を付す方法です。
一方、持分の結合に適用されるのが持分プーリング法です。
企業を買収したというより、それまでの状況と大きくは変わらず、手を取合って一緒にやっていきましょうというのが持分の結合のイメージです。
持分プーリング法では、簿価を引継ぐ処理が行われます。

問2
「基準」本編では3つの要件をあげ、すべてを充たせば持分の結合、それ以外が取得です。
要件のみをあげるのではなく、要件を充たせば持分の結合、そうでなければ取得という点を要件の順序も含めてしっかりと書きましょう。

「基準」では、取得と持分の結合の区別の規準を結合当事企業の持分が継続しているかどうかにおいています。
いずれかの企業で持分の継続が絶たれていれば、その企業に対する投資家はいったん投資を時価で清算(売却)し、新たに再投資を行ったのと同じと考えられます。
企業結合にあたって結合当事企業の持分が絶たれているか否かが取得と持分の結合の分岐です。
ただし、実際の企業結合は単純ではありません。
そこで、「基準」では、取得と持分の結合の区別を外形的に判断のつきやすい「対価」の種類と「支配」という二つの観点から判断することにしました。
対価が議決権のある株式以外(典型的には現金)であれば取得です。
対価に現金を出して、いや取得じゃないよという話にはなりません。
支配に関しては、まずは判断のつきやすい議決権比率要件を満たしていなければ取得です。
それ以外にも支配の要件を付しています。
この3つの要件のすべてを満たした場合が持分の結合です。
そして3つの要件を取得企業の判定にもそのまま生かしています。
つまり、対価要件で取得とされれば対価の支出企業を取得企業とし、議決権比率要件で取得とされれば議決権比率の大きい企業を取得企業とし、その他の支配要件で取得とされれば支配を獲得した企業が取得企業になります。
要件の順序もしっかりとおさえておきましょう。

問3
パーチェス法をしっかりと説明できるようにしましょう。
パーチェス法は買収法とも呼ばれ、ある企業が他の企業を買ったのと同様の会計処理を行います。
たとえば備品100円を現金で購入した場合は、次の仕訳が行われます。
(借)備品100 (貸)現金100
これは100円の価値(時価)の備品に、対価として100円の現金を支出した取引です。
時価100円の備品と時価100円の現金との交換といってもよいでしょう。
現金は、常に時価=簿価ですので、取引の一方に現金がある取引(等価の取引が前提です)の場合は、それぞれの金額で処理を行えばよいです。
パーチェス法のイメージは、まさに時価で「買った」というイメージです。

問4
持分プーリング法をしっかりと説明できるようにしておきましょう。
持分プーリング法の考え方は、収益の認識基準である実現主義と共通しています。
また、同種の固定資産の交換と基本的な考え方が同じです。
備品を現金で購入する取引を考えても両者の違いは現れません。
違いが見えてくるのは、引渡す資産の時価と簿価が相違する場合です。
例えば、簿価60円(時価100円)の土地を時価100円の同種同用途の土地と交換した場合を考えてみましょう。
従来の土地の帳簿価額を引継ぐ処理は次のとおりです。
(借)土地60 (貸)土地60
交換にあたっての処理は、従来の土地の帳簿価額を新しく取得した土地の取得原価として引継ぎ、交換によって損益は生じません。
より具体的には、例えば商売をやっていた人が道路の拡張で土地を収用されてしまい、やむなく近くの土地に移転して同様の商売を行う。
そんなケースを想定するといいかもしれません。
もちろん細かくは状況は変わっていますが、土地を売却し、再取得したというよりは、従来からの商売を継続するために同用途の土地に引継いだと考える方が自然でしょう。
このような経済的な実態に即して仕訳処理を考えるなら新たな固定資産の取得原価は従来の土地の帳簿価額を引継ぐべきであり、交換によって損益が生ずることもない訳です。
このような考え方が持分プーリング法と共通しています。
法的な出資の関係に変化があっても実質的には従来と変わらないのであれば、従来の資産等の帳簿価額を引継ぐべきであるというのが持分プーリング法です。
これを損益面から考えれば、従来の実現主義の考え方をそのままあてはめることができます。

問5
のれんの会計処理についてしっかりと説明できるようにしておきましょう。
のれんは、取得企業の取得原価(対価)が、取得した資産等に配分された額を超過する額です。

のれんの会計処理には、規則的償却を行う方法と規則的償却を行わず減損処理のみを行う方法があります。
「基準」が採用するのが規則的償却を行う方法です。
国際的には、規則的償却を行いませんので、出題の目は濃いです。

「基準」では、規則的償却を行う方法の根拠として次の点をあげています。
(1)損益計算の適正化
(2)自己創設のれんの計上防止
(3)減価をまったく認識しないよりも規則的に認識する方が合理的
(4)減価しない部分を分離することは不可能

(1)損益計算の適正化
そもそも損益計算は、投下した資本を上回って回収した資本として計算されます。
100円の商品を現金で買って(100円の資本を投下して)、現金120円で販売すれば(120円の資本を回収すれば)、120円−100円=20円が利益です。
損益計算(収益−費用)の意味は、投下した資本を超えて回収された資本を計算することです。
商品販売の場合にはとてもわかりやすいですが、固定資産の場合などは、投下した資本をどう費用としてとらえるかはわかりにくいです。
商品を販売するのに配送車がいる。
その配送車を買うのにはもちろんお金が必要です。
その投下した資本をどうにか費用として処理しないと期間損益計算はできません。
買ったときの全部の費用にする。
これではまずいです。
資産のままにしておく。
これもまずいです。
そこで利用している期間にわたってなんかいろんな方法(定額法等)で費用にしていくのが減価償却です。
固定資産について投下した資本を費用にする手続きが、減価償却です。

商品販売や固定資産以上にわかりにくいのがのれんの処理です。
そもそもののれんのイメージがわきにくいのが大きな原因でしょう。
のれんは企業結合に際して識別できる資産等を超えて支払われた対価部分です。
ある企業(たこ焼屋)に150円の価値を認めた。
でもそのたこ焼屋の資産は、備品100円しかない。
それではなぜそのたこ焼屋に150円を出すのかといえば、そのたこ焼屋に他のたこ焼屋よりもなんかもうける力があるからです。
たこ焼事業を買収すればそこから収益が生まれるでしょう。
自分で備品100円を買ってたこ焼事業をはじめるよりも既存のもうける力のあるたこ焼事業を買収した方がよいから50円を余分に出した訳です。
その後の損益計算をこの超過して支払った50円をまったく無視して行っても正しい損益計算(投下資本の回収計算)はできません。
そのもうける力がいったいいつまでもつのか等は判然としませんが、なんら損益計算に関係させないよりも、損益計算に関係させる方が適切だというのが「基準」の立場です。

(自分でたこ焼事業をはじめた場合)
1年の利益 100円

(もうける力のあるたこ焼き事業を買収した場合)
1年の利益 120円

もし、のれんをまったく償却しなければ、買収を行った場合の方が利益が多く計上されます。
それは当初に余分にお金を投下している訳ですからある意味当然です。
この超過利益に見合うのれんの償却をすべきというのが「基準」の立場です。
もっとも超過利益に見合うのれんの適正な償却額はわかりません。
しかし、わからないから償却しないよりも規則的な償却を行う方が合理的というのが「基準」の考え方です。

(2)自己創設のれんの防止
「基準」ではのれんを規則的に償却すべきとされていますが、その理由として自己創設のれんの実質的計上を防ぐことがあげられています。
そもそも自己創設のれんは計上がみとめられていません。
企業ががんばって他企業よりももうける力を身につけた。
しかし、それを資産計上することはしません。
現行の企業会計が、基本的には、企業の保有する価値や力を評価することが目的ではなく、適正な損益計算を目的とするからです。
あくまでも基本にあるのは、投下した資本とその回収余剰としての利益の算定です。

のれんが計上されるのは、あくまでも有償で譲り受けたり、組織再編があった場合のみです。
実際に取引があれば、話は違います。
ここで有償で計上されるのれんと自己創設のれんの関係を少し考えておきましょう。
典型的にはブランドをイメージするとよいでしょう。
ブランドそのものは企業結合にあたって区別して把握することができるならのれん以外の無形資産として計上することになっていますが、イメージがわきやすい例としてブランド的なもので話を進めていきましょう。

とても有名な企業だとこのブランド価値はすごく大きいです。
例えば、ソニーのブランド価値が1,000億あるとします。
でもこのブランド価値を守るためにソニーは経常的な努力をしていると思います。
CMを流すのにお金もかかります。
ニセブランドから身を守るために商標?登録したり、訴訟をしたりといったコストもバカにならないでしょう。
もっと積極的な努力もしているでしょう。
そんなコストが年間10億円かかるとします。
もし、この年間の維持コストを負担しなければやがてはソニーブランドもなくなってしまうかもしれません。
現状の自己創設のれんとそれにかかる維持コストの会計処理は、自己創設のれんを計上せずに、維持コストを費用処理しています。

仮にどこかの企業がソニーを買収し、ブランド価値を資産計上した場合に資産価値が1,000億あることは維持コストの負担を前提にしています。
なにもしなければブランド価値は500億になってしまうかもしれません。
かりにしばらく何もせずにブランド価値が500億まで下がった。
その後にがんばりなおして1,000億まで復帰した。
その場合の1,000億は当初の1,000億とは違っています。
つまり、(本当はもっと複雑ですが)当初のブランド価値は500億へって、その後に500億の新たな価値が生み出されたことになります。
このような新たに企業の生み出した無形の資産は、現行の制度会計では計上されません。
しかし、買収等のあった段階でののれんを計上し、それをまったく償却せずに放置すれば、やがてはその後に新たに生み出されたのれんにすりかわってしまうことになるのです。
それはマズイので、ちょっと減らしといたら(規則的に償却したら)というのが「基準」の立場です。

(3)(4)
のれんがいくらかは、他企業を買収する場合などは具体的な対価も伴い明確ですが、自分で作ったのれんの価値がいくらかは微妙です。
またそれがどんな減価のパターンをとるのかを正確に予測することなどできないでしょう。
しかし、正確に予測できないから償却しなくてよいというのは筋違いだというのが基準のとる基本的な立場といってよいでしょう。

(関連項目)
(1)事例での検討
企業結合は事例での出題も想定されます。
極めて簡単な計算問題で取得と持分の結合や取得企業の判定を口頭で説明するような練習をしておくとよいかもしれません。

(2)無形資産との関係
のれん以外にもブランドをどうするかというのが新たな会計学の課題になっています。
企業結合に際してもブランド価値として識別できるものは、のれんではなく、無形資産として計上することになっています。
この点、上記説明ではブランドをあげていますが、企業結合時のブランドで識別が可能なものはのれんには含まれません。