仮に分配可能額の全額を配当した場合、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)やその他資本剰余金は準備金の計上額だけマイナスになります。
会社法はこのような会計処理をどう考えているのでしょうか。

といっても会社法にそのような規定はありません。
会社法の規定や立法担当者の解説からどう考えているだろうかを伺うことができるだけです。

結論的には、会社法は、会計処理の事はあまり真剣に考えていないといってよいように思えます。
真っ先に思い当たる規定は、会社計算規則47条3項です。

「株式会社が自己株式の消却をする場合には、自己株式の消却後のその他資本剰余金の額は、当該自己株式の消却直前の当該額から当該消却する自己株式の帳簿価額を減じて得た額とする。」

自己株式の消却を行った場合の規定です。
自己株式の消却を行った場合は、自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額しろといっています。
消却直前のその他資本剰余金の金額がない場合もあるでしょう。
この場合には、「会社法上は」その他資本剰余金の値はマイナスになります。
同様の規定が「自己株式等会計基準11項」にあります。
そして12項にマイナスになった場合の対処規定があります。

会社法上、その他資本剰余金のマイナスがあり得るにもかかわらず、その対処は、極めてぼんやりとした会社計算規則50条3項の規定があるのみです。
このような規定ぶりから想像できるのは、会社法上のある種の無関心ではないでしょうか。
無関心がいいすぎならば、この点の会計処理は会社法以外(つまりは会計基準)にゆだねているといってよさそうです。

自己株式の消却時の会社法の規定を考えると、会社法は会計処理までをも自律的に規定している訳ではないことがわかります。
剰余金の配当時の準備金の計上もこれと同様のスタンスと考えるのが自然でしょう。

この点に関して、会計基準等はありません(たぶん)。
仮に自己株式等会計基準の方式(12項)をあてはめると次のような感じでしょうか。
繰越利益剰余金のマイナスはそのまま。
その他資本剰余金のマイナスは会計期間単位で繰越利益剰余金から減額。

剰余金の配当時の準備金の計上は、かつて準備金の「積立て」と呼ばれていました。
積立という言葉には、例えば手持ちの現金を貯金として積立てるというような「振替え」の要素が感じられます。
これに対して「計上」という語からは、振替え的な要素が後退しているようにも感じられます。
はっきりしたことはいえませんが、「積立」から「計上」への用語の変更には、もしかするとこのような意味も込められているのかもしれません。

分配可能額と剰余金の配当(6)