会社法が剰余金の配当等に関して統一的に設けた規制のハードル、それが分配可能額です。
分配可能額と剰余金の配当の関係を具体的な会計処理で考えてみましょう。

繰越利益剰余金が110(繰越利益剰余金は、貸方残)で、同額が分配可能額という前提です。

(1)剰余金の配当を100行う場合
準備金の要計上額を加味して配当を行えば、次のようになります。
110×10/11=100……剰余金の配当
100×1/10=10…………準備金計上額

(会計処理)
繰越利益剰余金110 未払配当金100
           利益準備金 10

これはいいです。
繰越利益剰余金もちょうどゼロです。

(2)剰余金の配当を110行う場合
準備金の要計上額を加味せずに配当を行えば、次のようになります。
110………………………………剰余金の配当
110×1/10=11…………準備金計上額

(会計処理)
繰越利益剰余金121 未払配当金110
           利益準備金 11

貸方の未払配当金110や利益準備金11はいいとして、問題は借方の繰越利益剰余金121です。
剰余金の配当を行う以前の繰越利益剰余金は110なので、借方残高11になります。
つまりは、剰余金の配当に伴う準備金の計上額だけ繰越利益剰余金がマイナスになります。

仮にその他資本剰余金の全額を配当する場合も同様です。
会計処理は、かなり不自然になります。

簿記の基本を学習しはじめた当初、簿記では例えば、資産勘定をマイナス(貸方残)にすることをしない(嫌う)と習いました。
勘定にはそれぞれの性格があって、その性格に反するような記入を避けたいのかもしれません。
また、複式簿記が基本的には足し算を中心にし、できるだけ引算を減らすことで計算のミスを予防する仕組みをもっていることと関連するかもしれません。
このような計算方法(引算)は時に加法的減法とよばれることもあります。

いや、複式簿記の基本的な仕組みを考えるまでもないのかもしれません。
分配可能額全部の剰余金の配当を行い、繰越利益剰余金やその他資本剰余金がマイナス(借方残)になることは明らかに不自然です。
このような不自然な会計処理を「会社法は」どのように考えているのでしょうか。

分配可能額と剰余金の配当(5)