会計基準、読んでますか?

会計基準が過去出題にどのように反映されているのか。

財務諸表論の過去問を小問化してお届けしています。

(問題)
発生主義の原則にいう「発生」の解釈には、狭義説と広義説の2説がある。これら2説の相違を明らかにした上で、各説と基準(意見書)で示された退職給付費用認識の関係について説明しなさい。

(解答)
狭義説は、費用を財貨又はサービスの消費事実に基づいて認識する考え方である。
広義説は、費用を財貨又はサービスの消費事実のみならず、その原因事実の発生も費用認識の基礎とする考え方である。
退職給付費用の認識は、費用的支出の原因事実の発生に基づいて行われており、広義説に基づく費用認識であるといえる。


(コメント)
解答は、一般的な模範解答に準じました。
でも、この問題は深いです。
深いのであまり深入りしなくてよいかもしれません。

でも、私は深入りしたりします(深入りしすぎなので注意してください)。

以下は、興味のある方のみお付き合いください。

まずは、退職給付の性格です。
賃金の後払が退職給付の性格でした。
過去の労働の対価、それが退職給付です。

次に発生の解釈における狭義説と広義説を考えてみましょう。
発生主義の原則にいう発生の解釈には、狭義説と広義説があるといわれます。
狭義説とは、費用を価値の消費事実に基づいて認識する考え方です。
なお、費消と消費という言葉を使分ける場合も多いですが、すべて消費で統一しました(ストック・オプション基準がそうです)。

物を購入して、消費した。
使って無くなったら費用を認識する。
減価償却なんかを想像するとよいでしょう。
これが狭義の発生主義です。
ただ、役務提供の場合には、ちょっとわかりにくいです。
役務提供を受けること自体が価値の消費といえるでしょう。
いったんサービスを受ける権利のようなものを取得した。
そしてその権利のようなものを消費したと考えるといいかもしれません。
物やサービスを消費した時点で費用を認識するのが狭義説です。
これに対して広義説は、このような意味での消費事実以外にその消費を生ずべき原因の発生事実も費用認識の基礎とする考え方です。
貸倒損失などを考えるとよいかもしれません。


次に、注解18の規定を整理しておきましょう。
注解18では、4つの要件を満たした場合の損益計算書の計上と貸借対照表の記載を規定しています。

(1)将来の特定の費用又は損失に対するものであること
(2)その発生が当期以前の事象に起因すること
(3)発生の可能性が高いこと
(4)金額を合理的に見積ることができること

ここで関連してくるのは、(1)と(2)ですので、絞ります。
この(2)をもって原因発生主義(広義説)が語られることが多いようです。


ここまでの理解を具体的な退職金の例で考えてみましょう。
退職給付の例でいえば、将来の退職給付(注解18に則していえば将来の費用、意見書では費用的支出)を当期の労働という事実に基づいて認識するのが、原因発生主義の考え方です。

(具体例)
Aさん 3年後に退職(退職金→退職給付300万)

(初年度)仕訳なし
(2年目)仕訳なし
(3年目)退職金(費用)300万 現金預金300万

これではまずい。

(初年度)退職給付費用 100万 退職給付引当金100万
(2年目)退職給付費用 100万 退職給付引当金100万
(3年目)退職給付費用 100万 退職給付引当金100万
     退職給付引当金300万 現金預金   300万

いま、割引計算をムシすればこんな感じでしょうか。

注解18でいってる「将来の特定の費用又は損失」は、この場合は300万円です。
意見書でいってる「費用的支出」です。
注解18の考え方は、将来の「支出」300万の当期の原因発生を根拠とする帰属(100万)を意味します。
将来支出300の当期への「配分」100といいたいところですが、企業会計原則では、過去支出の当期以後への帰属のみに「配分」を使っています。

今一度、前提を整理しましょう。

(1)賃金後払説(退職金は労働の対価)

(2)狭義の発生=価値の消費(財・用役の消費)で費用認識

(3)広義の発生=価値の消費の原因の発生で費用認識


模範解答は、退職金300万の「支出」を当期の労働という「原因」に基づいて計上するものと説明しています。
しかし、退職金が賃金の後払いなら、用役(サービス)の消費は労働に伴って行われていると考えられます。
つまりは、狭義の発生主義により説明することが可能です。
退職金300万の「支出」は当期の労働というサービスの消費に基づいて当期の費用認識を行っている。
むしろこの方が説明としては当を得ているように思います。
この出題は、複数の解答を想定している(スジがとおっていればよい)と考えるべきかもしれません。


このような考え方の分岐は、注解18の規定の解釈そのものにあるといえるかもしれません。
注解18は、通常は、原因発生主義で説明されることが多いです。
しかし、損失性の引当金を除いては、費用収益対応の原則や狭義の発生主義の原則で説明が可能でしょう。
引当金は、損失性のものを除いては、むしろ狭義説による説明の方が合理的だと考える人もいるようです。
この点、試験委員がどう考えていたのかを検討していませんが(←面目ない)、複数回答も視野に入れていたかもしれません。
というか入れていたのではないかと思います。

そう考えると平成18年の第一問(たぶん同一出題者)との整合がとれます(実現基準と有価証券の時価評価の問題で、複数回答が可能)。

スルーしてしまうとスルーしてしまうかもしれません。
しかし、投げかけられた問いは、受験生の力をはかるための剛速球ではないかと思います。