【対象=簿記論】

(問題)
以下の資料に基づいて数理計算上の差異を発生年度から10年で費用処理(定額法)する場合の決算整理後残高試算表を示すとともに当期末における未認識数理計算上の差異の金額を示しなさい。

(資料1)期首試算表【単位:千円】
【貸方】退職給付引当金(各自推定)

(資料2)期中資料及び決算整理事項等
(1)当期首の退職給付債務は200千円、年金資産時価は100千円であり、当期首において未認識の差異等はないものとする。

(2)当期の勤務費用は5千円であり、割引率は3%、期待運用収益率は2%である。

(3)当期中の年金掛金支払額が4千円あり、当期中に年金資産からの退職年金の拠出額が10千円ある。

(4)当期末における年金数理計算上の結果は、退職給付債務が205千円で、年金資産の時価が90千円である。

(解答欄)
決算整理後残高試算表【単位:千円】
【借方】退職給付費用 (   )
【貸方】退職給付引当金(   )
未認識の数理計算上の差異の当期末残高(   )

(解答)
決算整理後残高試算表【単位:千円】
【借方】退職給付費用 ( 10
【貸方】退職給付引当金(106
未認識の数理計算上の差異の当期末残高(  9

(解説)
期首に未認識数理計算上の差異がなく、当期に数理計算上の差異が発生し、当期から償却を行なう出題です。
現実的な出題では、未認識差異があり、翌期から償却を行う出題が想定しやすいが、数理計算上の差異の仕組みを理解する上で、こなす必要があると思います。

まずは、一連の処理をきちんと把握することが肝心です。
特に年金資産から退職者に退職年金が支払われた場合には、年金資産も減りますが、退職給付債務も減ることになるので、会社仕訳は要しない点に注意しましょう。

また、数理計算上の差異の計算時にこの点を加味しないと数理計算上の差異が算出できないことになります。
もっとも、両者ともに加味しなくても両者をあわせたところの数理計算上の差異は同額になります。

以下に一連の処理と数理計算上の差異の計算方法を示します。
数理計算上の差異は、いわば、会社が認識している(勘定残としての)退職給付引当金と正しい数理計算を行ったものとしての(退職給付債務と年金資産の差額としての)退職給付引当金の違いを意味しています。
いくつかのアプローチが可能かと思いますが、実際に複数のアプローチを追いながら数理計算上の差異の仕組みを把握する必要があります。
差異の仕組みを把握した後での画一的な解法は、スピードアップにつながるが、それ以前の段階で解法から入って仕組みに目を向けることがないと、たぶん応用問題には、歯がたたないのではないかと思います。

【通常の一連の処理】
(1)期首(設定時)
(借)退職給付費用 9 (貸)退職給付引当金9
(2)期中
年金掛金支払時:
(借)退職給付引当金4 (貸)現金預金等  4
年金資産拠出時:
仕訳なし
(3)決算(数理計算上の差異の償却)
(借)退職給付費用1 (貸)退職給付引当金1

【金額の計算】
期首退職給付引当金 200−100=100

退職給付費用(期首設定分)
(1)勤務費用 5
(2)利息費用 200×3%=6
(3)期待運用収益額 100×2%=2
(4)(1)+(2)−(3)=9

未認識数理計算上の差異の償却額 10×1年/10年=1

数理計算上の差異の金額
A法:
(1)数理計算上の差異を加味しない場合の退職給付引当金期末残高
 期首残高100+上記(1)から(3)9−年金掛金4=105
(2)数理計算上の退職給付引当金残高
 債務205−年金90=115
(3)(1)−(2)=10(数理計算上の差異)

B法:
(1)年金資産分
 会社計上年金資産:期首100+収益2+掛金4−拠出10=96
 年金資産の数理差異:96−90=6

(2)退職給付債務分
 会社計上退職給付債務:期首200+勤務5+利息6−拠出10=201
 退職給付債務の数理差異:205−201=4
(3)(1)+(2)=10


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