企業会計上、費用及び収益は、その発生時点で計上されます。

ただし、収益については、実現主義が適用されます。

売上の場合でいえば、商品の販売(引渡)と現金等の受領のタイミングで収益が実現したことになります。

収益の認識に実現主義が適用されるのは、収益について、処分可能なもの、確実なものを計上しなければならないという制度上の要請があるからです。

このような損益計算の体系のもとで、未実現利益は計上されません。

いいかえれば、未実現利益を計上しないことが、実現主義といえます。


今まで、企業会計の一側面、財務諸表でいえば、損益計算書の面を考えてきました。

ここでもう一つの財務諸表である貸借対照表を眺めてみましょう。

企業会計上の重要な課題の一つに資産(負債)の評価額をどうするかという問題があります。

伝統的な(今までの)企業会計では、資産を取得原価で評価していました。

このような考え方を原価主義(取得原価主義)といいます。

取得原価主義によれば、資産の評価額は、取得原価を基礎に算定されるので、評価益(つまりは、未実現利益)は計上されません。

取得原価主義は、未実現利益(評価益)を計上しないことを根拠に採用されているといってもよいかもしれません。

取得原価主義は、実現主義との相性がよく、このことを、「原価−実現主義」と呼ぶ人もいます。


資産が取得原価で評価され、それで大きな問題がないならば、それでよいでしょう(ちょっと前まではそれでよかった訳です)。

しかし、現実に大きな問題が起こりました。

原価主義は、取得原価を資産の評価額とする方法ですから、多少、資産の値段が下がっても、その資産を売却しない限り、損が出ることはありません(低価法や減損の話はひとまずおいておきます)。

このことを悪用していた企業が巨額の含み損を抱えて、相次いで破綻するという事例がアメリカで起こったのです。

この出来事をきっかけにアメリカでは、有価証券をはじめとする金融商品を時価評価するという方向に動きました。


有価証券を時価評価するという話は、必ずしも理論上、そうすべきだというところからスタートした訳ではありません。

現実に不具合が生じたから有価証券を時価評価することになったのです。

それに対する理論は、いわば後付です。

その後付けの理論の整備が困難を極めています。

意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、未だに、誰もが納得いく形で体系的な整理がされている訳ではないのです。

ですから、「実現」に対する理解も、この整理されていないという状況を整理することこそ大事なのだということは、知っておくべきかもしれません。


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