手形には、遡及という仕組みがあり、手形割引(譲渡)を行っても、偶発債務は残ります。
この偶発債務について、従来は、対照勘定又は評価勘定による備忘記録が行われることとされていました。
ただし、従来的な枠組みの中でも、これを備忘記録ではなく、簿記上の取引として捉える場合があります。
それは、引当金の設定が行われる場合です。

企業会計原則の注解18では、「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、当期の費用又は損失として引当金に繰入れ」ることとされています。

要は、損する可能性が高い場合には、引当金を設定することになる訳です(って、随分省略形ですが)。
手形割引については、従来は、貸倒引当金の設定による対処が行われていたといってよいでしょう。

手形割引は、法的には、手形債権の譲渡でした。
もう少し詳しくいうと、一般的な手形割引は、不渡等の特別な事情が生じた場合の買戻しの条件が付いた譲渡(買戻条件付譲渡)といえます。
手形債権は、譲渡してなくなってしまう訳ですから、本来は、評価勘定としての貸倒引当金を設定するのはおかしいです。
これは譲渡してしまった受取手形以外に受取手形がない場合を想定するとよくわかるかと思います。
貸借対照表上も、受取手形0で、いわば、マイナスの受取手形である貸倒引当金が生ずることになってしまいます。

理論的には、例えば、手形買戻損失引当金というような偶発損失引当金を設定するのが正しいというべきだったのかもしれません。
このあたりにも、従来から手形割引に対する偶発債務の処理がやや怪しい兆候はあったといってよいかもしれません。
簿記の出題でも、貸倒引当金の設定について、割引手形を含む場合とそうでない場合があったのは、上記のような理由からといってよいでしょう。

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