金融商品会計基準の導入により手形割引の会計処理に変更があった。

とりあえず、結論のみを記せば、次のような会計処理が一般的といってよい。

この処理は、実務指針の設例16にあげられている。


現金預金   ××× 受取手形×××
手形売却損  ×××
保証債務費用 ××× 保証債務×××
(手形売却損)×××


この処理を次の三つの要素に分けて考えてみたい。

(1)(貸方)受取手形

(2)(借方)手形売却損

(3)偶発債務の処理


まずは、(1)の(貸方)受取手形である。

金融商品会計基準では、権利の行使・喪失・移転にかかわらしめて、金融資産の消滅の認識(要は、貸方・金融資産)を行うこととした。

手形の割引は法的には、手形債権の譲渡(移転)であり、金融商品会計基準に照らしても、金融資産の消滅の認識の会計処理を行うべきことになる。

ただし、この点に関しては、必ずしも「金融商品会計基準の導入による変更」とは言い難い。

従来の会計処理でも受取手形勘定は減額させており、貸借対照表の表示も同様である。

一見、変更があったかに感じられるのは、(3)の偶発債務との関係で、受取手形勘定を直接減額させない会計処理が存在していたに過ぎず、実質的な変更ではないのである。



実質的な変更があったのは、(2)の手形売却損である。

従来の会計処理では、この部分は、支払割引料とするのが一般的であった。

これは、従来的に、手形割引を資金取引(借入取引)と考えており、割引料を借入金に対する利息の性格を有するものとみていたためである。

つまり、従来は、同一取引を資産売却と資金取引という二つの異なる考え方に基づいて処理していたのである。

この矛盾を解消すべく手形売却を資産売却取引として一貫して捉えるという点が新しい会計処理の特徴である。

しかし、手形割引が法的には、資産の譲渡であったとしても、経済的にみて、これを単なる固定資産等の売却取引と同視することはできない。

むしろ、当事者間においても、資金取引と考えているのが一般的といってよいだろう。

現在でも、資金取引として一貫して捉えるべきとの考え方もある。

また、現実的にも割引料の本質は、少なくとも金融機関の側では、まさに金利そのものと認識されている筈である。

この点を考慮してか、現在でもむしろ「支払割引料」を使うべきとの考えもある。

このように新しい会計処理がすっきりしない原因は、当初の手形取引の段階で金利部分を分別処理しない(できない?)ことに最大の原因があるというべきである。



金融商品会計基準におけるもう一つの特徴的な取扱いが(3)の偶発債務の処理である。

これは、金融資産の消滅の認識(貸方・金融資産)における権利の移転に関する考え方に、財務構成要素アプローチを採用したことにより生じた取扱いといってよいだろう。

財務構成要素アプローチとは、いわば金融資産の消滅の認識をバラバラに行う考え方である。

それまでは、全部移転を前提とするリスク・経済価値アプローチがとられていた。

現実の手形割引の法的な実態は、買戻条件付の売却に近く、手形債権は消滅するものの、新たに(一定の条件のもとでの)手形買戻義務(偶発債務)が生ずる。

単独の手形債権が、(+)手形債権と(−)買戻義務に分離され、手形債権は相手に移転して、買戻義務は自分に残るという感じであろうか。

もちろん、実際に手形を所有しつづければ、買戻義務は生じない訳であるから、この買戻義務は、手形割引取引によってあらたに生じたものである。



この買戻義務を負債として、時価計上したもの、これが保証債務である。

もっとも保証債務の時価の算定は、容易ではなく、現実的には、計上に足らずとして計上しないか、貸倒引当金の設定に準じた計上が行われることになるのであろう。

金融商品会計基準によれば、金融負債の貸借対照表価額は、債務額とされていることから、保証債務の時価による評価換えは想定されていないといえるだろう。



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